「怒涛の円安相場」も一服…米ドル、本格的な調整局面入りか【国際金融アナリストが解説】

5/17~5/23の「FX投資戦略ポイント」

「怒涛の円安相場」も一服…米ドル、本格的な調整局面入りか【国際金融アナリストが解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

米ドル/円は、過去2ヵ月程度で115円前後から130円前後まで、一気に15円以上もの記録的なドル高・円安となりましたが、これまで続いてきた「怒涛の円安相場」について、一服感がみられると、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏はいいます。米ドルの本格的な調整局面入りの可能性について、さまざまなデータを紐解きながら吉田氏が考察します。

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    [ポイント]

    ・「怒涛の円安」は、「息切れ」の可能性が出てきたのではないか。

    ・それは、この米ドル高・円安トレンドが終了したということではなく、この2ヵ月ほどほとんど見られなかった、米ドルの本格的な調整局面入りの可能性として注目。

    ・そうであるなら、先週のような、米ドル高値圏での上下に振れの激しい展開が、今週の場合なら127~131円といったレンジ中心に展開するといった予想が基本か。

     

    先週の米ドル/円は、このあいだの高値をわずかに更新したものの、その後は127円台まで米ドルが反落するなど、上下に振れの大きい展開となりました。こんなふうに、米ドルが一時大きく反落となったのは、客観的に見ると米国株の下落が急拡大した影響が大きかったでしょう。

     

    とはいっても、このところ「株安(リスクオフ)=円高」といった関係は崩れていました(図表1参照)。ただ、主要な米国株価指数が軒並み年初来安値更新となる中で、一時米金利も大きく低下し、米ドル/円はそれに連れて下落した面が大きかったのではないでしょうか。

    (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    [図表1]米ドル/円とNYダウ(2021年1月~) (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

     

    また、米国株とユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルなどには順相関の関係があります(図表2参照)。要するに、米国株とユーロ/米ドルなどは同じ方向に動く習性があるということ。

    (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    [図表2]ユーロ/米ドルとNYダウ(2021年10月~) (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

     

    このため、上述のように米国株安が拡大するなかで、米ドル/円は一時急落(米ドル安)となったものの、そんな動きを尻目にユーロ/米ドルや豪ドルはユーロ安・米ドル高、豪ドル安・米ドル高となりました。この結果、ユーロ/円や豪ドル/円などクロス円が急落、クロス円主導で円高になった面もあったでしょう。

     

    それにしても、より大きな構図としては、5月にかけて一気に130円を超えるなど「止まらない円安」、「怒涛の円安」が展開するなかで、さすがにテクニカルに見て、短期的な米ドル「上がり過ぎ」、円の「売られ過ぎ」懸念が高まり、きっかけ次第で米ドル安・円高への反動も入りやすくなっていた影響があったのではないでしょうか。

     

    米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は一時プラス10%以上に拡大しました(図表3参照)。これは、米ドルの短期的な「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたことを示しています。また、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションの売り越しはこのところ10万枚前後に拡大しました(図表4参照)。これは、円の「売られ過ぎ」懸念が拡大している可能性を示しています。

     

    (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    [図表3]米ドル/円の90日MAかい離率(1990年~) (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    [図表4]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2015年~) (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    これまで続いた米ドル高・円安…ついに「息切れ」か

    米ドル/円は、過去2ヵ月月程度で115円前後から130円前後まで、一気に15円以上もの記録的な急騰となりました。こういったなかで、先週のこのレポートでも指摘したように、さすがに米ドル高・円安にも、「息切れ」感が出てきたということではないでしょうか。

     

    そもそも、3月以降の米ドル/円急騰は、基本的に米金利上昇に伴う日米金利差米ドル優位拡大に裏付けられたものでしたが、125円を超えてからは、実は金利差で説明できる範囲を超えた動きたとなっていた可能性がありました(図表5参照)。

    (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
    [図表5]米ドル/円と日米金利差(2022年1月~) (出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

     

    このようなことは、一方向へ記録的ペースで展開する相場では珍しくありません。当初こそ、理屈に沿った展開だったものの、勢い付くなかで理屈を超えた動きになるということですが、ただしそういった動きはいずれ修正局面を迎えるのが基本でした。

     

    一方で、先週127円台まで米ドル反落となった後、すぐに週末にかけて129円台を回復するなど、なお米ドル買いの根強さも確認されました。勢いづいた相場が多くの支持を集める、今回の場合ならそれは米ドル買い・円売りとなりますが、それは遅れて相場に米ドル買い・円売りで参入する動きをもたらすなどの影響もあるせいか、余程のことでもないと、簡単に大きく反転しない傾向もあります。

     

    以上を整理すると、「止まらない円安」、「怒涛の円安」は、前回のこのレポートでも述べたようにやはり「息切れ」の可能性が出てきたのではないでしょうか。それは、この米ドル高・円安トレンドが終了したということではありませんが、この2ヵ月ほどほぼ見られなかった、米ドルの本格的な調整局面入りの可能性として注目されるかもしれません。

     

    そうであるなら、先週のような、米ドル高値圏での上下に振れの激しい展開が、今週の場合なら127~131円といったレンジ中心に展開するといった予想が基本になるのではないでしょうか。
     

     

    吉田恒

    マネックス証券

    チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

     

    ※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

     

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