ハイテク技術の潮目・円安で日本に吹く「神風」
産業集積と「つらら」
産業集積はどのようにしてできるのだろうか。多くの製品は特定の地域の特産となっている。そこにしかない天然資源、海山の珍味に由来するものもあるが、たいていはほとんど偶然の産物である。
なぜデトロイトが自動車のメッカになったのか、それはフォードの出生地がデトロイト郊外のディアボーンであり、そこに最初の量産工場が作られたことに由来する。なぜシリコンバレーがハイテクのメッカになったかといえば、スタンフォード大学出身の研究者・起業家たちがそこに拠点を作ったことから始まった。
このような産業集積の勃興は、まるでつららが一冬かけて成長する姿に似ている。
なぜ雨どいの特定のところに巨大なつららが形成されるのだろうか。それは雨どいの突起かゴミの付着か何かの理由によって最初の1滴がそこから垂れたことから始まる。2滴め以降も当然同じポイントから滴れ落ちるので、やがて巨大なつららが形成されることになる。
こう考えると、つららの生成には、①最初の一滴、②持続的な水滴の氷化を可能にする低温、の2つが必須ということになる。
産業集積を考えた場合、最初の一滴にあたるものが政策であり、低温の持続にあたるものが、有利な価格競争力を維持できる通貨安、となぞらえることができる。
いま、米国と西側諸国は脱中国のサプライチェーンの構築を迫られている。また各国は産業の頭脳ともいえる半導体自給の確保に躍起となっている。
どうしても自国に産業のつららを作らねばならないとすれば、偶然ではなく政策によって確実に最初の1滴を垂らす必要がある。またつららが早く確実に成長できるように、有利な為替レートの維持が必要である。
日本復活のカギとなるハイテク産業…円安は「必要十分条件」
日本ハイテク復活は日本経済の失地回復にとって決定的に重要である。そしていま進行中の円安により、日本復活の必要十分条件が満たされつつあるといえる。
ハイテク中枢で負けた日本は、周辺底辺のニッチ分野を圧倒的におさえており、世界のサプライチェーンのボトルネックが日本に集中するという特異なポジションにある。
いままた半導体・エレクトロニクス産業は潮目の転期を迎えている。①半導体技術・微細化のさらなる進化・ブレークスルーの場面にあること、②半導体を受容する基幹的エレクトロニクス製品もスマホからポストスマホへと変化していく転換期にあること、である。
これまでのハイテクの勝者がそのまま勝ち続けることができるとは限らない。
新エコシステムが必要となるときに、日本が次の時代の勝者になる条件があることは、これまでの分析から明らかであろう。
改めて日本でのハイテク産業集積の再生(つららの形成)には、十分な低温つまり円安が必要だ、ということがわかるだろう。財政金融当局は、ミクロ産業の価格競争力強化に資する円安堅持こそ必要だと、肝に銘じてもらいたい。
いまの日本ではTSMCを中核として、ハイテク産業集積の再構築を図ることが喫緊の課題であるが、1ドル130円の円安定着は、神風になるのではないか。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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