通貨高が国力を衰弱させた大英帝国と日本
長期国益の観点から円安が良い
メディアでは輸入物価の上昇が家計を直撃する「悪い円安」との議論が多い。経営者からも、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「適切な水準だとはとても思えない」「輸出企業だけが日本経済を引っ張っているわけではない」と悪い円安論を展開した。
鉄鋼連盟の橋本会長は「輸入価格を価格転嫁しにくい日本で、円安容認政策で良いのか」と述べた。野口悠紀雄氏、唐鎌大輔氏など多くのエコノミストも円安は日本凋落の現れ、放置するべきではないと主張している。確かに、黒田日銀総裁も指摘する通り、急激な変化は混乱を招くのでスムージングの調整は必要だが、円安と言う趨勢に抵抗するべきではない。
円安は輸出業者にプラス、輸入業者にはマイナスなど、関係者によって短期では利害得失が相反する。しかし長期的に日本の国益、日本経済の繁栄を考えれば限りなく望ましいことである。円が弱くなれば輸出が増え輸入が減る、また海外移転工場の国内回帰、輸入品の国内生産代替なども起きる。よって、日本国内投資と生産が増え、所得は増える。
かつて超円高の時代はその逆のことが起きた。日本企業は海外に工場を移し、国内需要は安い中国品に蚕食された。しかし今、日本企業の(国内で発生する)コストが30年前の半分に低下した。またコロナパンデミック終息の暁には割安になった日本に外国人観光客が殺到するはずである。
このように価格競争力回復強化がすべての経済活動の基本である。それには円安が必須である。
Jカーブ効果で円安メリットは甚大に
これほど明確な円安のメリットを、なぜエコノミストやメディア、特に日本のビジネスの利益を代弁する日経新聞は伝えないのか、それはエコノミストやジャーナリズムの多くが目先の円安による輸入価格の上昇とそれによるインフレしか見ていないからである。
しかし円安の貿易収支(=貿易による国内所得寄与)にはJカーブ効果があることは、ベテランの経済人であればだれでも知っている。
つまり円安の当初は輸入単価が上昇して貿易赤字が増え、その時点では円安はマイナスに見えるが、やがて円安は大きな数量変化をもたらす。国内市場では割高な輸入品から割安な国産品へ、海外市場では割安な日本製品が外国製品を駆逐してシェアを高め、日本での生産と雇用、投資の活発化に結び付く。
今や日本企業は輸出せず海外生産していると言うが、海外工場の利益は円安で大きく膨らみ、技術指導料や配当などのサービスや金融所得増加という形で日本の親会社にも利益がたらされる。