2022年3月、中国は恒例の「全人代」が終了した。以降、関係者たちの関心は秋の「20大」へと向かい、習近平続投か、そして李克強以降の後継首相について注目している。マスコミ報道等の場を借りて、主要官僚たちが微妙な言動で神経戦を繰り広げる中、動向をつぶさに観察すると見えてくるものがある。中国内外の中国語媒体から今後の行方を考察する。

20大に向けての政治的展望

海外華字誌の多維新聞は両会直後の3月、「春秋筆」欄で、朱鎔基元首相、温家宝前首相、李克強首相の新任・退任時の記者会見発言を特集※2

 

※2 3月15日付多維新聞

 

1987年、趙紫陽氏が総書記になった際、多くの敏感な問題についての質疑があって以降、総書記記者会見は保守的になり、敏感な質疑は行われなくなったが、首相記者会見は変わっていないとしたうえで、温氏が退任記者会見で「政治改革を進めなければならない。停滞、後退は出口がなくなることを意味する」、李氏が「国際情勢がどう変化しようとも、長江黄河が逆流しないように、中国は揺るぎなく(堅定不移)開放を進める」としたことなどを紹介。習派に対峙する勢力が「続投を目論む習氏に圧力をかけた」と受け止められている。

 

多維は親中で知られるが、中でも反習とされる江沢民・曽慶紅派に近いとみられており、実際、上記「春秋筆」の中で、朱氏が当時新任記者会見で発言した「自分は100の棺桶を用意している。99は腐敗役人用、残り1つは自分用だ」の部分は、歴史的に同氏の名言と評判が高いにもかかわらず紹介していない。「腐敗」は江曽派の腐敗汚職問題を連想させることから、おそらく意図的に省略したとの見方がある。なお、同新聞は23年間続いていた海外華字誌だが、4月に突然、「内部新聞業務調整のため」を理由に発刊を停止した(別途レポートにて詳述する予定)。

 

3月には、その他の海外華字ネットワークでも反習の立場から多くの評論が紹介される一方、2021年来の反習とみられる公安・司法関係最上層部の摘発がなお続いている。

 

公安部元副部長(副大臣)や元司法部長(大臣)らに続き※3、今回取り調べを受けていると発表されたのは、2018年まで最高人民法院常務副院長だった沈徳咏氏※4。「重大な規律違反」とだけ発表され、具体的容疑は明らかにされていないが、同氏は曽慶紅氏をトップとする江西閥(幇)で、公安・司法から江曽派の影響を一掃する習氏の目論見の一環と注目されている。

 

※3 孫力軍元公安部副部長は2020年4月に失脚、21年9月に党籍はく奪と公職追放(2つの開徐という意味で「双開」と呼ばれる)。傅政華元司法部長は21年10月に失脚、22年3月双開。理由は「政治的野心の極度の膨張」「不適切な政治グループ(団伙)の結集」など。

 

※4 3月29日付海外華字誌希望之声、同26日付阿波罗禁聞他。多維新聞には関連報道なし。中国内メディアは簡単に事実関係のみ報道。

 

3月29日付海外華字誌希望之声、同26日付阿波罗禁聞他。多維新聞には関連報道なし。中国内メディアは簡単に事実関係のみ報道。

 

沈氏は「政治的底線」、つまり政治的に譲れないボトムラインを重視する人物で、習氏続投に反対しており(自ら任期満了前に辞任の意向を示した2018年は、全人代で国家主席任期制限撤廃の憲法修正が成立した年にあたる)、これは「政治的迫害」だとの指摘がある一方、常務副院長として、18大前に失脚した薄熙来氏、18大後に失脚した周永康氏、胡錦濤氏の側近だった令計画氏などに関わる多くの重要案件を取り仕切ってきた人物で、沈氏が指揮した案件はすべて再度洗い直す必要があるとの声も出てきている。万が一そうなった場合の政治的インプリケーションは大きい。

 

3月にはさらに海外華字誌上で、元老(朱鎔基氏との見方がある)が党中央に対して9項目にわたる意見書を提出したとの未確認情報が出回った。これも 習氏をけん制する動きの一環とみられる。9項目は、

 

①極端な清零政策に反対

 

②計画経済への回帰、国有企業が拡大し民間企業が衰退する「国進民退」に反対

 

③経済問題で素人が専門家を指導する(外行領導内行)ことはできない。党・国務院指導層の経済への介入を止めるべき

 

④「鉄鎖女」のような社会問題を公かつ公正に処理する

 

⑤戦狼外交やロシアのウ侵攻などに反対

 

⑥徳をもって、また政治的派閥(幇派)ではなく正当な者が国を治めること(以徳治国、正派治国)

 

⑦個人崇拝や無期限の留任に反対。集団指導体制を堅持

 

⑧20大準備作業は現指導層と過去の指導層が共同で行う(特に胡錦濤、曽慶紅、汪洋各氏)

 

⑨勇気をもって真実を話す

 

何れの項目も習氏自身、またはその政策をターゲットにしていることは明らかだ※5

 

※5 3月15日付華尔街新聞(米ワシントンポスト中国語版)。3月31日付中国瞭望他は、本文⑥、⑧から、朱氏ではなく、おそらく曽氏に近い反習派が朱氏の名前を借用した可能性が高いとの見方を紹介。華尔街新聞は3月21日までに朱氏の名前に言及した関連報道を削除。

 

全人代が終わり、秋の20大に向けて、習派が習続投をさらに確かなものとするのか、それに対抗し得る反習勢力が結集されるか、そして李氏に対する評価はあるも、すでに李氏からその後継首相が誰になるか(温氏退任時と異なり、今回はなお後継候補について確たる情報なし※6)に関心が移りつつある。

 

※6 李強上海党委書記が有力候補の1人と言われているが、上海での感染拡大で事実上の「封城」措置が採られた3月末、李氏の側近である上海市政府秘書長が「感染予防措置が十分でなかった」などと陳謝。間接的に李氏が誤りを認め謝罪したもので同氏の失点になったとの指摘がある(4月4日付希望之声)

 

 

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