Q.2 目覚めを良くする朝食メニューは?
⇒A. 具沢山の味噌汁がお薦めです。
温かいものを摂取すると深部体温が上がります。ホットコーヒーだけでも目覚めの効果があるのですが、ゆるす限り朝食をとりましょう。体温が上昇するだけでなく、代謝も上がります。
朝の太陽光は、体内時計に「朝だ!」と知らせてリセットさせるものですが、朝食も然り。ずれやすい体内時計を、太陽光と朝食でしっかりと合わせて体のリズムを整えれば、夜のより良い入眠につながります。睡眠と覚醒はコインの裏と表のように一体になっています。睡眠の問題を抱える人たちの話をうかがうと、その不眠は朝の生活習慣から始まっていると思うことが多いです。
●体温が上がる
●代謝が上がる
●体内時計が整う
●体にリズムが生まれ、自律神経も整う
●1日の始めにエネルギー補給ができる
こうした効能を考えれば、朝食は睡眠にとって「いいことずくめ」といえます。
■朝食をとることで肥満防止。睡眠時無呼吸症候群のリスク低減につながる
睡眠の質を落とす最大の原因は睡眠時無呼吸症候群。それを避けるために肥満は禁物なのですが、朝食はダイエット効果もあります。
私たちの体は「食物をとることは生命を維持するうえで重要な仕事」ととらえています。それなのに「さあ、今日も1日エネルギーを消費するぞ」という朝の時点でお腹が空っぽだと、「大変だ、飢餓状態になるかもしれない」と省エネモードになります。その結果、代謝を落として脂肪をため込もうとします。筋肉はカロリーを消費しますが、朝食をとらないと筋肉をエネルギー源にしようとして筋肉量がダウンし、基礎代謝の低い体になります。
飢えと背中合わせだった古代人にとってはありがたい体のしくみですが、たっぷり脂肪がお腹につきがちな現代人には「ありがた迷惑」になることも。だからこそ、しっかり朝食をとることで「大丈夫、飢えずに1日を送れるから安心していいよ」というメッセージを、体に伝えておいたほうがいいのです。
■「具沢山の味噌汁」で朝食のメリットを最大化
アメリカでも日本でも美容と健康を謳うスムージーが流行しましたが、私がお薦めする朝食メニューは「具沢山の味噌汁」です。大きめに切った大根や人参など、しっかり噛む食べ物を入れるといいでしょう。噛むというのは筋肉を使う「運動」。噛んで味わう咀嚼(そしゃく)は、感覚神経の上行枝(じょうこうし)への刺激にもなり覚醒刺激を引き起こします。
固形のエサを「よく噛んで食べたマウス」と、粉末状のエサを噛まずに食べた「丸呑(の)みマウス」を比較した実験があります。「丸呑みマウスは昼夜のメリハリがなくなり、活動すべき時間に動かなくなる」「丸呑みマウスは1日中少しずつ食べるようになり体重が増える」という結果でした。さらに丸呑みマウスは、海馬の神経細胞が再生しにくくなっていた――つまり忘れっぽくなっていることがわかったのです。ぽっちゃりして忘れっぽいネズミはキャラクターなら愛嬌がありますが、人間では微妙です。
味噌汁やスープなどの汁物で体温を上げ、大きめの具をしっかり噛んで朝食のメリットを最大化しましょう。
味噌汁などに含まれる必須アミノ酸の摂取は大事で、例えば、必須アミノ酸のトリプトファンが気分の調節に関わるセロトニンに、そしてセロトニンが睡眠ホルモンのメラトニンに合成されます。これら必須アミノ酸の摂取のためにサプリを飲む必要はなく、バランスの良い食事をとれるのであればそれほど心配することはありません。
セロトニンは体の中に充分蓄えられています。ただしメラトニンは貯蔵できないので、夜に光を浴びることによる悪影響はすぐに出現します。朝摂取したトリプトファンやトリプトファンを含む蛋白がその日のうちにメラトニンに合成されるわけではありません。セロトニン生合成は光で促進されることがよく知られていますが、セロトニンは体内で蓄えられるので、光量不足は長期間続くと問題がありますが、短期間ではそれほど心配することはありません。北欧で見られる季節性感情障害(冬季にうつ症状が出現する)は、極夜(1日中太陽が出ない)が続くことにも原因がありますが、これは極端な例です。
西野 精治
医師、医学博士
スタンフォード大学医学部精神科教授
株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問
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