「物的資本」への投資も必要
■アメリカの生産性が高い理由の1つであり、ソ連の失敗の1つでもある
経済成長を目指すなら、人的資本に投資するだけでは十分でない。「物的資本」への投資も必要だ。物的資本とは、生産工程で使用される道具、工場、設備などをさす。蓄積した物的資本が増えると、その国は「資本深化」を経験する。資本深化とは、1人の労働者が使える資本の量がたくさんあるということだ。
資本深化が起こると、生産性の高い労働者が増える。アメリカの平均的な労働者は、1人につき13万ドル(約1495万円)の物的資本で支えられている。これもまた、アメリカの生産性が高い理由の1つだ。
物的資本を手に入れるには投資が必要なので、金利も大きく関係してくる。金利が低く、安定していれば、投資が促進される。短期で見れば、投資によって総需要が喚起される。そして長期的な投資の効果は資本が蓄積されることだ。金利が高い、あるいは不安定のときは投資が落ち込み、結果として社会の資本が減る。
資本を手に入れたら、今度はそれを維持しなければならない。資本が力を発揮するには適切なインフラが必要だ。道路、水路、鉄道、安定した水道や電力のシステムがあれば、資本へのアクセスが簡単になり、資本を効率的に活用できる確率が大幅に向上する。
1991年に崩壊したソ連の失敗の1つは、資本を有効に使えなかったことだ。ソ連が建設した工場は、西側のそれと比べると何倍も大きかった。しかし、そもそもインフラが整っていなかったために、まず工場に到達するまでが大変だった。そのため、せっかく生産しても、製品を全国に届けることができない。
発展途上国は電力の供給が安定せず、輸送網も発達していないので、工場を効率的に活用することができない。対してヨーロッパ、日本、アメリカといった先進国はインフラが整い、資本が生み出した製品を適切に活用し、必要なところに送り届けることができる。
経済成長を続けるための「研究開発」
■発展途上国が経済発展を続けるにはイノベーションが必要。中国の今後は?
経済成長を続けるには、創造性、イノベーション、発明が必要だ。欧米や日本の企業が研究開発に投じる額は、発展途上国の企業よりもはるかに多い。
研究開発を推進するなら、将来の利益のために今の利益を犠牲にすることが求められる。企業がこのリスクを取るには、それなりのインセンティブと保護が必要だ。たとえば特許は、開発者の権利を法的に守る働きがあり、この保護があるおかげで、企業は研究開発の成果を利益につなげることができる。
発展途上国が経済発展を続けたいなら、国内でイノベーションを起こさなければならない。近年、中国はめざましい発展を遂げたが、主にどこか別の場所で開発されたものを生産したおかげだった。
中国には、能力が高く、知的で、革新的な人材がたくさんいるが、知的財産を適切に保護する法律が存在しない。これはつまり、中国の生産者にとって、研究開発に投資するインセンティブがほとんどないということだ。せっかく大金を投じて新製品を開発しても、すぐに隣の工場にコピーされてしまうのでは意味がない。いずれ中国も、生産者の知的財産を保護する方向に進むことになるだろう。
デーヴィッド・A・メイヤー
ウィンストン・チャーチル高校 AP経済学教師
桜田 直美
翻訳家