「年金+勤労収入」でも負担増加を避けるには?
■考え方はパートタイマーの「103万円の壁」と同じ…「控除内で働く」
図表2は、年金が4割減になる将来ではなく、現行の厚生年金給付を前提に、年金をもらいながら給与収入を増やしていったときの負担のシミュレーションだ。
この表のなかで、注目してほしいのは、年間50万円分働いたときと、100万円分働いたときの負担の差だ。
50万円分働いても、税金や社会保険料は一切増えないのに対して、100万円だと地方税や社会保険料の負担増が伴う。なぜこんなことが起きているのか。
パートタイム労働者の間では、「103万円の壁」という言葉が広く知られていて、年間103万円までの給与収入に所得税は課税されない。その理由は、給与所得控除の存在だ。自営業者は必要経費を売上から控除できるが、勤労者が全員経費申告をしたら、税務当局の作業がパンクしてしまう。そこで、勤労者には概算の経費として、収入に応じた給与所得控除が認められているのだ。給与所得控除には55万円という最低保証がある。その55万円に基礎控除の48万円を加えた控除金額が103万円という額だ。収入が103万円未満なら控除額が収入を上回るので、所得がゼロになる。つまり、税金がかからないのだ。
それでは、高齢者の場合はどうだろう。高齢者の就業率は年々高まっていて、2020年は65〜69歳の49.6%が働いている。70歳まで年金受給権者の半数が働く社会では、年金を受給しながら働くときの税金や社会保険料はとても重要だ。
公的年金の収入は税制上、給与所得ではなく雑所得に分類されている。そのため公的年金には、給与所得控除ではなく、公的年金等控除が適用される。
実は、給与所得控除や公的年金等控除といった所得控除の制度が、2020年に大きく変更された。誰にでも適用される基礎控除が38万円から48万円へと10万円増額されたのに対して、給与所得控除の最低保証が65万円から55万円へと10万円減額され、公的年金等控除の最低保証額も65歳以上の場合、120万円から110万円へと10万円減額された。給与所得だけの人や、年金所得だけの人は、基礎控除の増額を給与所得控除や公的年金控除の減額で相殺されて、控除額の合計は変わらないのだが、問題は年金をもらいながら働いている人だ。単純に新制度を適用すると、控除の増額が10万円で、減額が20万円となるので、働く高齢者が増税されることになってしまう。
そこで新たに作られたのが、所得金額調整控除だ。この控除は、給与所得控除後の給与等の金額および公的年金等に係る雑所得の金額があり、給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額の合計が10万円を超える場合に適用される。控除額の計算は、以下のとおりだ。
所得金額調整控除額={給与所得控除後の給与等の金額(10万円を超える場合は10万円)+公的年金等に係る雑所得の金額(10万円を超える場合は10万円)}–10万円