日本のデジタル証券市場は群雄割拠の戦国時代
日本のSTビジネスを取り巻く環境ももちろん黎明期にあります。
2020年5月に金融商品取引法が改正され、STが金融庁管轄の新しい有価証券の仲間入りをしましたが、それに先立つ動きとして、プラットフォーム(STを発行・流通させるインフラストラクチャー)の構築をめぐって、日本有数の金融機関、名だたる大企業が精力的に準備活動を行っており、群雄割拠の戦国時代のようになっています。
ここまでの流れを大まかに整理してみると、以下のようになります。
①野村ホールディングス系列、株式会社BOOSTRY設立(2019年9月)
ST取引基盤の開発・提供を行う会社として設立され、2020年12月にはSBIホールディングスが資本参加しています。
②三菱UFJ信託銀行、ST研究コンソーシアム設立(2019年11月)
ブロックチェーンを使い、証券決済・資金決済の一元的な自動執行、権利保全を行う基盤の開発を行う目的で設立され、デジタル証券の発行・管理プラットフォームProgmat(プログマ)を開発しました。
③日本STO協会、金融庁の「認定金融商品取引業協会」に(2020年4月)
デジタル証券の発行などに関するルールなどを定め、STの普及啓発に努める自主規制団体です。
④金融商品取引法改正で、STが有価証券(デジタル証券)へ(2020年5月)
⑤LIFULLがSTOプラットフォームの提供開始(2020年10月)
金融庁ではなく国土交通省の管轄下となりますが、Securitize Japan社と LIFULL社は不動産特定共同事業者向けに日本初となる一般個人投資家向け不動産STの発行を行いました。
⑥大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)設立(2021年3月)
ODXは、SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループの合弁により、STを取扱う私設取引システムの運営を目的に設立されました。
⑦ibet for Fin コンソーシアム設立(2021年4月)
SMBC日興証券、SBI証券、野村證券、BOOSTRYの4社で、STを取扱うためのブロックチェーンネットワークを運営する目的で、ibet for Finネットワークを設立。併せて、この月にSBI証券から社債型STがデジタル証券として発行されました。
⑧SBI証券、野村證券が共同で、国内不動産を裏付けとしたST発行(2021年8月)
1口100万円、2口から購入可能、オンラインで申込受付。プラットフォームはProgmatを使用。同プログラムでは、12月に第2号を発行しています。
⑨東海東京証券で、国内不動産を裏付けとしたST発行(2021年11月)
1口1,000万円、対面販売。シンガポールのSTプラットフォームADDXへ上場され、売買が可能になりました。
このようにみてみると、2019年9月以降、ST商品の発行は⑤、⑦、⑧、⑨(⑤以外はデジタル証券)と数ヵ月おきに何らかの動きが出ていますが、それ以外は管理・流通の基盤整備です。日本のSTを取り巻く環境は、まだまだ巨大な街づくりの最中といったところでしょうか。
ところで、これまでに発行されたST商品の換金方法について、⑨がシンガポールのST取引所ADDXに上場されていますが(日本の不動産がどの程度海外で売買されるかは不明ですが……)、⑦、⑧は証券会社(⑤は不動産会社)が買い取る形になっています。
そのため、業者の財務力により換金できる金額に制限があり、ブロックチェーンで自由に売買といった域には到達していないのが現状です。
日本国内の流通市場については、上記②と⑥に挙げた大阪デジタルエクスチェンジとProgmat(プログマ)が連携して、2023年度に市場の確立を目指すとしています。
なお、既存大手証券会社を中心とする動きとは別に、スタートアップであるHash DasH HoldingsがSTの発行から流通までをオールインワンで行うシステムの開発を目指しています。
三好 美佐子
Hash DasH株式会社
取締役
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