「調査の端緒となるべき事情があった」といえるのは…
では、どのような場合に「調査の端緒となるべき事情があった」といえるのかが問題となるわけですが、最判平成21年11月27日判決は、「代表理事Aの一連の言動に明らかな善管注意義務違反があったことをうかがわせるに十分だった」事案で、監査役の調査・確認の義務があったとしています。
また、上記大阪高裁においては、
①取締役会において議題として取り上げられた形跡がないこと
②営業活動が違法な形で行われ、取引先との間でトラブルが発生していること
を、「監査役らが知り得たと認めるに足りる証拠も存しない」事案において、任務懈怠(取締役としての任務を怠った場合、会社に対して損害賠償責任を負うとするもの)が認められませんでした。
さらに、上記東京地裁平成28年判決において、
①虚偽の情報に接しない状況にあった
②社長が虚偽の情報であることを秘匿し続けた
ことから、(監査役が)虚偽の情報であったことを認識していると認めることはできず、
③虚偽の資料の記載内容自体が、直ちに虚偽のものであると疑うべきであったとまではいえない
こと等の事情から、監査役の任務懈怠は認められませんでした。
以上により、調査の端緒となるべき事象は、一般的・抽象的なものに止まる場合には該当しない場合が多く、具体的かつ明確なものであれば該当する場合が多いものと考えられますが、いずれにしても「個別事情」を踏まえた判断とならざるを得ません。
なお、内部統制システムが適切に構築されている会社では、そのシステムを使った監査が認められるため、監査役自らが個別取引の詳細まで精査することは求められていないと判断される傾向にあります。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
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