(※写真はイメージです/PIXTA)

完全受注生産の建物づくりは、やり直しがきかない一大事業プロジェクトである。ここでは「工場」に焦点を当て、「どんな機能をもたせるべきか」「耐震性能はどれほどにすべきか」について、三和建設株式会社・社長の森本尚孝氏が解説していく。

工場や倉庫に必要な「耐震性能」は意外にも…

■耐震性能をどう考えるか

 

工場・倉庫建設を具体化する前に考えておきたいのが、耐震性能をどのレベルに設定するかということだ。一般的に、建物の耐震性能は高いほど良いとされている。また近年はBCP対応の観点から、耐震性能をより重視する企業も増えている。しかし耐震性能を高めることは当然コストアップにつながる。

 

「耐震等級」という概念が法的に定義されている。

 

1から3まである等級のうち最低基準となる耐震等級1では、建築基準法で定められた、建物に備わっているべき最低限の耐震性能を満たしていることを示すもので、震度6強から7に相当する数百年に一度起こる大地震に耐え得る強度をもつように構造計算される。巨大地震で壊れることは許容するが、人命は守るという基準である。

 

その次の等級である耐震等級2では、耐震等級1の1.25倍の地震に耐えられる耐震性能が必要となる。地震災害時の避難施設となる学校や市役所などの公共施設に求められる基準だ。

 

さらに耐震等級3では、耐震等級1の1.5倍の地震に耐えられる耐震性能が必要で、災害時の救護活動・災害復興の拠点となる消防署・警察署に適用される。

 

これら3つの等級の、どこを目指すべきだろう。

 

結論をいうと、筆者は多くの工場や倉庫では、耐震等級1を満たせば十分だと考えている。複数の工場をもつ企業の場合、基幹工場だけはどのような災害時でも止めないという考え方で耐震等級を上げることもある。また美術品保管など特異な用途をもつ倉庫では相応の対策が必要だ。

 

しかし一般的な工場や倉庫の場合、そこまで高い耐震性能が必須とはいえない。そもそも多くの工場・倉庫は平屋の鉄骨造で屋根が軽いため、地震によって崩壊する可能性は低い。震災によって建物が変形したとしても、あとから修復するなどの対処もしやすい。そういう意味でも、耐震性の向上は必ずしも不可欠ではない。

 

それでも耐震性を高めてほしい場合は、施主が自ら積極的にオーダーすべきだ。耐震性を上げる提案はコストアップ要因となる。重要なのは建てようとしている施設にどの程度の耐震性能が必要なのかを見極めることだ。

 

 

森本 尚孝

三和建設株式会社 代表取締役社長

※本連載は、森本尚孝氏の著書『工場・倉庫建設は契約までが9割 完璧な事前準備と最適なパートナー選びでつくる理想の工場・倉庫』から一部を抜粋・再編集したものです。

工場・倉庫建設は契約までが9割 完璧な事前準備と最適なパートナー選びでつくる理想の工場・倉庫

工場・倉庫建設は契約までが9割 完璧な事前準備と最適なパートナー選びでつくる理想の工場・倉庫

森本 尚孝

幻冬舎メディアコンサルティング

新しい工場・倉庫の建設は企業にとって社運を賭ける一大事業である。 これまで多くの工場・倉庫・事務所ビルの建設に携わってきた筆者は、理想の工場・倉庫づくりに最も大切なのは、「一緒に考え、つくり上げていく」パート…

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