【関連記事】歯科医院は「スリッパをやめる」だけでも患者が増える
患者さんは「自然と集まるもの」ではない
医院に勤務しているドクターのお仕事は、医院にやってきた患者さんを診ることです。
「今日も患者さんをたくさん診たよ、大変だったし疲れたなぁ」と口では言っていても、内心では一生懸命に働いた充実感や、患者さんから頼りにされた満足感で一杯かもしれません。
確かに、患者さんを診ているのはドクターです。しかし、その患者さんは医院が集めてくれたのです。開業するドクターは、まずそこに気づかなければなりません。
そもそも患者さんは医院にやってくる前に、
①その医院があることを知り、
②周りの人たちにその医院の評判を尋ね、
③良い医院だと判断し、
④医院にやってきて、
⑤診察を受けます。
勤務されているドクターは⑤でしか関わっていませんが、実は①~④の前工程があるのです。
これは言われれば確かにわかることです。しかし、開業したばかりのドクターは患者さんが来院するまでの①~④の工程がイメージできず、「開業すれば患者さんは自然と来るんじゃないか?」などと呑気に構えてしまいがちです。患者さんを集める対策を何も打たないと、患者さんは来ず、急激に資金が減少します。そうすると、院長先生の心が荒み労務トラブルが頻発するなどして、後で痛い目に遭うことでしょう。
税理士事務所ではありますが、私自身も開業したばかりのころは、そのことが理解できておらず、痛い目に遭いました。
「お客様の増やし方」がわからずに陥った苦境
私は2008年の10月1日に念願の独立開業をしました。
20代のころから夢見ていた自分の税理士事務所を構えることができて、そのときの私は感無量でした。しかし、感慨にふけっていられたのはその後わずか数日間でした。
開業後一週間も経つと「お客様がまったく取れない」「毎日やることがない」という現実を突き付けられました。
「よしこれからバリバリ働くぞ!」
と心は燃えたぎっているのですが、仕事がまったくないのです。毎日がとても、とても暇なのです…。
「お客様がまったく取れない」というよりも、そもそも「お客様の増やし方がまったくわからない」と言ったほうが正しかったように思います。
大手税理士事務所に勤めていたころは、私も福岡県内で有名な病院を何件も担当しており、毎日忙しく働いておりました。開業する前の私は、自分が開業してもそんな忙しい日々が、何となく続くような気がしていました。
しかしよくよく考えてみると、私が開業したからといって、「開業されたのですね。それでは我が社の顧問税理士になって下さい」などという人は世の中に存在するはずもありません。
まずは私の存在を知ってもらうために、あらゆる交流会に参加し名刺交換をし続けました。
「税理士の鶴田です。はじめまして!」
「へぇ、税理士さんなのですね」
くらいの反応しか相手からは返ってこず、まったく相手にされません。
数えきれないほどたくさんの人と名刺交換をしました。その結果、ごくごく稀に税務顧問の依頼があったりはしたのですが、
「なるべく安い顧問料でお願いします。お互い大変なんですから助け合いましょうよ。給与計算込みで月額一万円でお願いします」
と言われる始末でした。
時給千円以下の業務もザラ…多忙なのにお金は減る一方
情けないのは、そんなお客様でさえ「わかりました」と涙をのみながら、せっせと顧問契約を交わして仕事を引き受けてしまうことです。
顧問料は安いのに手間がかかるお客様をせっせと増やしていくものですから、仕事量は膨大であるにもかかわらず、売り上げは大して増えません。段ボール箱に雑然と放り込まれた領収書を眺めてウンザリしていました。目が回るほど忙しいのに、銀行預金の残高はどんどん減っていきます。
「こんなはずじゃなかった…」
お客様からいただく顧問料を、仕事時間で割ると、時給にして千円を下回ってしまうこともザラでした。
「時給千円か…。これじゃパートさんと変わらないな…」
本来は経理の事務員を雇ってしてもらうような仕事を、体よく押し付けられていることに気づいていても、お客様の増やし方がわからないので、黙々と仕事を引き受けざるを得ませんでした。
このように、開業当時、私はお客様の増やし方がまったくわからなかったのです。その後、同い年くらいの社労士や司法書士など他の士業の方たちと仲良くなって、お互いにお客様を紹介し合ったり、仲良くなった人が主催するセミナーの講師をさせてもらったりするなど試行錯誤を重ねました。そうして、少しずつお客様の増やし方がわかるようになりました。
開業前に「患者さんの獲得ルート」を考えておくべき
これから開業する院長先生に私のような苦労をして欲しくはありません。そこで、お伝えしたいのは、事前に患者さんの獲得ルートを考えておいて下さい、ということです。
私の場合、他の士業の方と組んでお客様を紹介し合いました。この方法は医院でも応用できると思います。眼科の医院を開業する際、近隣の流行っている糖尿病クリニックの院長先生と仲良くなっておくとか、歯科を開業する際、金属アレルギーを扱っている皮膚科クリニックの院長先生と仲良くなっておく、小児科を開業する場合は近所の産婦人科の院長先生と仲良くなるなど、考えればいろいろなアイデアが出てくるのではないでしょうか?
鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人 代表、税理士
1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒。福岡の大手会計事務所の医療機関専門の税務スタッフとして5年勤務の後、2008年医院専門の税理士事務所を開業。顧問先医院から最近受けた相談を紹介する「メルマガで学ぶ医業経営のポイント」およびYouTube「医院経営の教科書」も配信中。著書に『成功する開業医』(中央経済社)がある。
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】