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病院内に居場所がない、仕事がない…院長夫人の悩み
従業員数が50人、100人、200人…と増えれば増えるほど、院内に居場所がなくなって孤独感に苛まれる院長夫人は多いように思います。
特にご主人が実家の病院を承継した場合は、スタッフがいつも同じように忙しく動き回っている中、「若奥様」という立場でそのスタッフの中に入っていくことになります。
残念ながら院長夫人という立場は周りの人たちに誤解されやすく、特にスタッフからはあまり好意的な目では見られていないことが多いと思います。
規模が大きい病院の院長夫人は、
「私がいなくたって病院は普通に回っていきます。みんな忙しく動き回っている中で、なんだか自分だけがポツンと取り残されたようです」
「特に理由もなく病院に顔を出すと、どうかしましたか? という表情でスタッフが寄ってくるんです。なにか特別扱いをされているようで何となく病院に行きづらいんです」
「医療法人の理事なので、税理士の収支報告に立ち会ったり、院長(ご主人)の話し相手にはなっているんですが、私個人は一週間のうち半日仕事があればいいほうで、残りの日はやることがなくて、とっても暇なんです」
などとおっしゃる方が、とても多いように感じています。
打開策として「スタッフ採用のお手伝い」がオススメ
特にご主人が実家の医院を事業承継された場合、すでに大勢のスタッフが忙しく現場を動き回っているわけですから、自分ひとりだけが取り残された感覚を持ってしまうのも無理はありません。詳しくお話を伺うと「院長夫人って本当に大変な立場なんだな」と思います。
そんな孤独感に苛まれていらっしゃる院長夫人は、スタッフの採用をお手伝いされてはどうかと思います。後ほどお話しますが、ご自分がスタッフの採用に携わることにより、あなたから採用されたスタッフの数が1人、2人と院内で増えていきます。
5~10年もすればあなたが採用したスタッフが院内で半数以上になります。そうすると、「私は奥様から採用してもらったんだ」と恩義を感じてくれるスタッフも増えますし、院長夫人も「自分が採用したんだから一人前に育てなきゃ」という良い関係の中で働けるようになると思います。
スタッフの定着率が上がると、医院の業績もアップ
「スタッフの定着率が良い医院は、業績が良くなる」
これは私の持論です。
歯科医院を例にお話しましょう。弊所の歯科クライアント様には、医院の収支を報告する際、歯科診療台(チェア)1台当たりの売り上げを報告しています。その際に目安となるチェア1台当たりの売り上げは1ヵ月でおおよそ100万円です。
歯科医院は、開業の際に医院の床面積が何平方メートルとれるかで、初めから設置できるチェアの台数が決まっています。仮にスペース的にチェアが4台しか入らないとしましょう(そこに5台や6台のチェアを入れることは、絶対に不可能だということです)。
4台しかチェアが入らないのであれば、その歯科医院の月の売り上げのおおよその目安は400万円(100万円×4台)です。つまり、歯科医院は限られたチェア台数の中で、いかに効率よく売り上げを上げるかがとても大事なのです。
ちなみに、弊所の歯科クライアント様の中で、チェア1台当たりの売り上げが最も高い歯科医院の売り上げは1ヵ月で325万円です。つまり、その歯科医院では同じチェア1台を使って、一般的な歯科医院の3.25倍の売り上げを上げているのです。
「いい加減な診療をして、次から次に患者さんを診てるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
この歯科医院の院長先生は、私から見ても医療にとても真摯に取り組んでいらっしゃり、治療に関して決して手抜きをしているようには思えません。難しい手術を翌日に控えた場合、前日の晩から別室に籠って家族の誰とも口を利かず、手術のイメージトレーニングをして精神を統一しているそうです。
それでは、一人ひとりの患者さんを丁寧に診ながらも、なぜこれほど売り上げが上がるのでしょうか?
その理由を院長先生に聞いてみたところ、この歯科医院ではベテランのスタッフが多く、とてもきびきびと働いているそうです。
むしろ院長先生がのんびりしているとスタッフから、「院長先生、次の患者さんが待っています、急いで下さい!」と急かされ、また院長先生と患者さんとの世間話が少しでも長くなると、「ここからは私が説明させていただきますね」と話をさえぎってきて、「早く次の患者さんのところへ行って下さい!」とアイコンタクトをしてくるそうです。
最近は勤続10年以上のベテランスタッフが増えてきて、「息をつく暇もなく次の患者さんを診なければいけないんです。おかげで診療が終わった後はヘトヘトです」と院長先生は笑っていらっしゃいました。
また、その歯科医院の離職率を調べたところ、20名のスタッフがいながら、過去3年間のスタッフの退職者はたったの1名でした。医療機関の平均的な離職率は15%程度ですから驚異的な数値です。
スタッフの定着率が上がると、
●段取りがよくなり、次の行動が読めるようになる
●スタッフと患者さんとの付き合いが長くなり人間関係が深まってくるので患者さんが喜ぶ
●医療技術が上がり業務そのもののスピードが速くなる
といったことが起こります。スタッフは医院に長く勤めることによって、一年、もう一年とスキルアップをしていきます。そして、限られた設備の中で診ることのできる患者数が増え、その結果医院の業績が良くなるように思います。
定着率を高めるためには「良い人材の採用」が第一
スタッフ定着率と医院の業績との関係を歯科医院を例にとってお話しましたが、この考え方はどの医療機関でも当てはまります。
例えば、ある医院では1日80人の患者を診られるとしましょう。
仮に1年後に、スタッフのスキルが5%上がったなら、1日で84人(=80人×105%)の患者を診られるようになります。このとき、1日当たり4人分の患者さんの売り上げが増加します。
診療単価を5千円と仮定すると、1日当たり2万円(=4人×@5千円)の増収になりますよね。1ヵ月の診療日数を22日と仮定すると、44万円(=2万円×22日)の増収、1年に換算すると528万円(=44万円×12ヵ月)となりクリニックの事業規模としては、決して無視できない金額となってきます。
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【現在】1日あたり患者数80人×診療単価5千円×22日診療=売り上げ880万円
スキルアップにより診られる患者が5%増えると
↓
1年後1日あたり患者数84人×診療単価5千円×22日診療=売り上げ924万円
その差は44万円!
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つまりスタッフの定着率が上がると、その結果として医院の業績は良くなっていくのです。診る患者さんが増えても、スタッフへの昇給は月に数千円程度であり、人件費はほとんど変わらないわけですから、売り上げが増えた分は、まるまる利益として医院に残ることになります。
医院の業績を上げるために何をしたらよいのか見当がつかないという奥様には、まずは良い人材を採用するなど、スタッフの定着率を上げるためのお手伝いをして欲しいと思うのです。
鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人 代表、税理士