(※写真はイメージです/PIXTA)

「スタッフの定着率が良い医院は、業績が良くなる」。そう指摘するのは、クリニック専門税理士として20年間にわたり医院経営に携わってきた鶴田幸之氏です。とはいえ、厚生労働省の令和2年雇用動向調査結果を見てみると、離職者数の多い産業として、トップが「宿泊業、飲食サービス業」、次いで「卸売業、小売業」、その次に「医療、福祉」が挙がっているというのが実情。スタッフの定着率を上げるには、どうすればよいのでしょうか。

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「スタッフに悩んでいる医院」の共通点

スタッフの定着率を上げるには、まずはずっと勤めて欲しいと思うような良い人材を採用しなければなりません。これは誰でもわかることなのですが実際は、

 

「スタッフが反抗的なんです」

「仕事を全然覚えようとしないんです」

「給料を上げて欲しいとか、もっと休みが欲しいなどとやたらと待遇を改善して欲しいと言ってくるんです」

 

といったお悩みをよく伺います。

 

毎日そのようなお悩み事を聞いていると、スタッフに対するそうしたお悩みを抱えている医院には、ある共通点があることに気づきます。それは人が辞めるときだけ採用をしている、つまり欠員補充だけをしているということです。

 

欠員補充をするとき、おそらく次のことが起きます。

 

①スタッフが来月末で辞めたいと言ってきた

②慌てて求人を出す

③なかなか応募がない

④少ない応募者の中からやむなく採用する

⑤やむなく採用した新人がトラブルを起こす

⑥既存スタッフからも不満の声が上がる

⑦スタッフが来月末で辞めたいと言ってくる

以下、②~⑦の繰り返し。

 

スタッフに悩んでいる医院は、実はこの負のサイクルがずっと続いているように感じています。そうならないようにはどうするべきなのでしょう?

「ちょっと多めの人員体制」にして負のサイクルを脱却

解決策は、ちょっとだけ多めの人数で経営することだと思います。スタッフ5人で医院の仕事が回るようであれば、パートの方を1人増やして、ほんのちょっとだけゆとりのある体制にするイメージです。

 

医院は女性の職場です(スタッフは女性が多いという意味です)。結婚、出産、ご主人の転勤、親の介護などで一定の離職者が出ますよね。ちょっとゆとりのある体制を組んでいれば、急な離職者が出たとしても、次のスタッフを採用できるまで今のスタッフで対応が可能です。

 

ギリギリの人数でやっているとそうはいきません。慌てて求人を出して…、では②~⑦の負のサイクルが待っています。

 

「余分な人件費をどうやって捻出すればいいんですか?」という質問が来そうですが、そこは院長先生もしくは奥様の報酬を下げて捻出するしかないと思います(ちなみに税理士事務所の話ですが私自身もそうしています)。

 

パートの方お一人の人件費は月10万円くらいです。月に10万円で、誰かが辞めたら医院が崩壊するという状況を回避できるのであれば、10万円くらい自分の報酬を削っても、十分に割に合うのではないでしょうか?

 

奥様が「私の給料を10万円下げていいから、もう一人パートさんを採用しましょうよ」と院長先生に提案し、パートの方を採用でき、そのスタッフが定着してくれれば、欠員補充の負の連鎖を断ち切ることができるはずです。そしてこの医院のピンチを救ったのは奥様ということになります。奥様が医院の現場で働いていなくても、医院の業績を上げることはできるのです。

 

もちろん、新人の採用のために奥様の報酬を10万円下げたとしても、院長先生や奥様が何不自由なく生活できるようでなければなりません。常日頃から医院の収支をプラスにしておき、奥様が多めの給料をもらうようにしておきたいところです。

院長、奥様、教育係…「採用面接者」は多いほど良い

さて、「プラス1名」の採用は、どのような人材を採用すればよいのでしょうか?

 

私が思うに採用者に求める能力は、

 

●仕事の飲み込みが速い

●周囲との良好な人間関係が築ける

●誠実で勤務態度が良い

 

といったところでしょうか。

 

「そんな良いスタッフをどうやって見つけるんですか?」との質問が聞こえてきそうですね。正直なところ、なかなか見つからないと思います。

 

小規模の医院で、かつ他院と比べて給与等の求人の条件が見劣りする場合はなおさらです。

 

まずは、働きやすい職場であることを応募者にアピールしつつ、院長先生と奥様が一緒になって採用面接をし、応募者の人柄や医療のスキルを二人の目で厳選するようにしていってはどうでしょう?

 

できれば新人教育を担当するスタッフにも、一緒に面接に立ち会ってもらうようにしましょう。採用した後、実際に育てていくのは教育担当のスタッフなので、院長先生や院長夫人だけでなく、教育担当のスタッフとの相性もとても大事になるからです。

 

教育担当のスタッフを面接に参加させることなく、院長先生と奥様の二人だけで面接をした場合、スタッフから見ると、新人は「院長夫婦が勝手に採用した人」ということになります。自分が採用面接と無関係なら、新人に対する愛着や思い入れもありません。

 

もし採用面接を院長先生だけでされている場合は、奥様や新人教育担当スタッフも含め、たくさんの人の目で選んだほうが、ベストの採用とまではいかなくとも、よりベターな方向に近づいていくと思います。院長先生、奥様、スタッフのみんなが「自分が選んだんだから一人前にしてあげよう」と新人教育にも熱心に取り組むようになると思います。

 

いずれにしても、経営者の本来のお仕事は、「現場で汗水を垂らしながら懸命に働く」ことではなく、「会社の今後の方針を考え、良い人材を採用し、育てて戦力化すること」だと思います。

ベテラン院長の「ランチタイムを使った」面接方法

現在60歳の歯科医院のベテラン院長先生の話です。この方は、27歳のときに歯科医院を開業して今まで30年以上医院を経営してこられました。これまで採用したスタッフの総数は延べ50名を超えるそうです。

 

これまでにスタッフのことで、ずいぶん苦い経験もされたようですが、現在の採用方法は、まず昼休みに入る30分前に診療を切り上げて面接を開始するところから始めます。その際、「この子はナシだな」と思う場合は早々に面接を切り上げるらしいのですが、「この子はいい子だな」と思った場合は、

 

「あなたの分までお弁当を用意しているから、先輩スタッフと一緒にご飯を食べながらみんなにどんな職場なのか尋ねてみるといいよ。その間、僕は席を外すから、遠慮なく院長の悪口でも何でも聞いてみて(笑)」

 

といって、みんなとお昼休みを一緒に過ごしてもらうそうです。このお昼休みにスタッフと一緒に過ごすというのは、実はもうひとつの目的があります。既存スタッフの新人に対する面接も兼ねているのです。

 

現場で新人スタッフに仕事を教えるのは既存スタッフです。お昼休みに雑談をしながらも、「この人と一緒に働きたいか?」を実は判断しているのです。

 

既存スタッフが、「この人とは一緒に働きたくない」と判断した場合、院長先生がどんなに採用したかったとしても採用しません。既存スタッフが「この人だったら一緒に働けそう」と思う場合は採用です。

 

また、採用した後に本人に、「実はあのときは先輩スタッフの面接も兼ねていて、みんなあなたがどういう人なのかを見ていたんだよ。その結果、みんながあなたと働きたいっていうから採用になったんだよ」という話をします。

 

そうすると「自分は先輩に好かれているんだ」と感じ、院長先生や先輩へのロイヤリティが高まって、採用後の仕事の覚え方がとても速くなるそうです。

 

この歯科医院の面接の流れをまとめると

 

①昼休み30分前に面接開始

 不採用の場合⇒面接は終了

 採用に迷った場合⇒お弁当を準備

 

②お昼休みにスタッフと雑談

 印象が良い場合⇒採用

 印象が悪い場合⇒不採用

 

となります。この面接方法の利点は、次のことです。

 

■新人にとっての利点:みんなが自分のことを最初から歓迎してくれる

 

■スタッフにとっての利点:自分たちと相性の良い人が入社してくる

 

■院長にとっての利点:不採用の結果、人手が足りずに仕事が大変になったとしても、スタッフの意見を尊重して採用を見送っているので、「忙しい」という不満が出にくい

 

なお、この方法は、院長先生と既存スタッフの人間関係が良好な場合にのみ使える方法です。

 

院長先生とスタッフとの関係が上手くいっていない医院には、スタッフに医院や院長先生の悪口を言われたりする可能性があり、逆効果になります。こうした場合は、あまりお奨めできません。

 

 

鶴田 幸之

メディカルサポート税理士法人 代表、税理士

1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒。福岡の大手会計事務所の医療機関専門の税務スタッフとして5年勤務の後、2008年医院専門の税理士事務所を開業。顧問先医院から最近受けた相談を紹介する「メルマガで学ぶ医業経営のポイント」およびYouTube「医院経営の教科書」も配信中。著書に『成功する開業医』(中央経済社)がある。

※本連載は、鶴田幸之氏の著書『成功する開業医』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

成功する開業医 院長夫人、あなたが期待されていること

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鶴田 幸之(著)
茂垣 志乙里(イラスト)

中央経済社

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