債券軟調といっても、長期金利は依然としてかなり低い
リターンの方向だけをみれば、「金利上昇・株上昇」の業績相場ですから、長期におよぶ金融相場的な色彩が解消されたようにも映ります。しかし、実際には長期金利の水準は、パンデミックの極端な低金利がいくぶん解消された程度で、依然としてかなり低く留まっています。
長期金利が上昇しない理由はいくつかありますが、需給ではなくロジックに焦点を当てたものとして、金融市場が「景気の底」から「利上げ織り込み」までを一気に突き進んだことが挙げられるでしょう。
景気のサイクルは、
①「景気の底(デフレ)」
→②「景気回復(リフレ)」
→③「景気拡大(インフレ)」
→④「利上げ(インフレ抑制)」
といった形で進んでいきます。
過去2回のサイクルでは、③の「景気拡大」の勢いが緩やかで、インフレも鈍いために、④の「利上げ」がかなり遅く訪れるといったふうでした。
しかし、今回は、景気後退が金融危機や信用収縮をともなわず、供給制約も影響しているために、③「景気拡大(インフレ)」の勢いが強く、まもなく④「利上げ」が訪れると見込まれています。すなわち、米連邦準備制度理事会(FRB)への信頼が厚く、「FRBはインフレを看過しない」と見ているわけです。
債券市場は「世界は変わらない」と見ている
FRBへの信頼だけではありません。[図表3]に示すとおり、金融市場は「FRBが考えるほど(→打ち止め2.5%)には利上げは継続できず(=さほどインフレは持続せず)、利上げはせいぜい1.5%程度で止まる」と見込んでいます(⇒ならば、10年国債利回りもその程度に留まっているのは不思議ではありません)。
また、原油も昨年からの戻りはあったものの、今後もどんどん上がっていくと見ている人はほとんど見当たりません。
債券市場は、「A. FRBは現下のインフレに積極的に対応し、しかも、B.根っこの低インフレの世界も変わらない」と見ています。「過去40年の低インフレが継続する」という債券市場の外挿が、株式市場のセクター配分にも影響を及ぼしているでしょう。
過去40年にわたって「ディスインフレ」の中心であったのは、中央銀行への信頼、低賃金の労働供給を含むグローバル化、高齢化(⇒貯蓄増加)、資本蓄積(=資本の期待リターンの低迷)です。
いまは、これらに格差が加わり、テクノロジーが格差を強化しています。そして、気候変動対策やSDGsが、「質素な生活」として総需要を抑制したり、特定のセクターや一般家計に負担を強いれば、低インフレや格差を支援する可能性があるでしょう。
これらの方向性がどうなるのか、有権者や政府は社会を変えていくことができるのかを考えることが、投資のヒントになるかもしれません。