ジュネーブを本拠とするエドモンド・ドゥ・ロスチャイルド。スイスだけでなく世界中の富裕層に対して個別にカスタマイズした運用サービス等を提供し、その歴史と伝統、運用実績は注目に値する。今回、同社で新興国債券・通貨の運用を担当するシニア・ポートフォリオ・マネージャーのジャン=ジャック・デュラン氏にインタビューを行った。第2回目のテーマは「コントラリアン(逆張り投資家)」になる理由。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のシニア・マネージャー幾田朋彦氏である。

新興国債券のネック「流動性の低さ」にどう対応する?

幾田 投資対象としている銘柄には流動性の低いものも多いかと思いますが、どのように流動性リスクを管理しているのですか?

 

ジャン 流動性リスクの管理は非常に重要だと考えており、推奨リストにある銘柄の流動性を常に分析しています。過去10年、流動性が低く運用環境が厳しい中で、私達は様々な事を学びました。流動性を分析するにあたって、ポートフォリオ全体の残高や銘柄ごとの組入総額に着目する必要があります。私達は比較的小規模なファンドの運用を行なっていますので、サイズの点では問題ありません。もう一つは、どのようなクライアントを持っているかです。2011年に私が運用を引き継いだ際は25百万ユーロの小さなファンドでした。

 

その後、現在の残高へと増える過程で投資家の数も増えたわけですが、幸いにも長期を見据えた投資家の方々がほとんどです。私たちの戦略はそもそも長期投資を基本としています。短期的には、リスクも高くなるかもしれませんが、長期的には実を結ぶと判断すれば、積極的にリスクを取りに行くこともあります。

 

私たちはコントラリアン(逆張り投資家)でもあります。他のファンドマネージャーが投資対象としていないような銘柄に投資することで、パフォーマンスの向上を狙うことも、しばしばあります。このように、投資機会を捉えるために、流動性に対して短期的にリスクをとることができるのは、さらに長期を見据えた投資家の方々が背後に控えているおかげともいえるでしょう。

 

幾田 ザンビアやモザンビークも米ドル建の債券を発行しているとは知りませんでした。このような銘柄の資金フローやバリュエーションをどうやって分析するのですか?発行量もトレーディング・ボリュームも少ないでしょうし、そもそも分析するだけのデータが入手できるのですか?

 

ジャン ハードカーレンシー建ての債券は、現地通貨建ての債券と比べて種類が豊富です。約80カ国、社債も加えると1500以上の発行体が存在します。中央アメリカやアフリカでは、現地通貨建ての債券はなく、米ドル建の債券のみが発行されています。中には流動性が低いものもありますが、指数に採用されている銘柄などは比較的流動性も高いです。資金フローに関しては、日々あるとは限りませんが、中期的には問題ないレベルのフローが見られます。

 

これらの国に投資する際は、むしろその時のポジショニングに注目します。ブローカーやリサーチ会社から得る調査結果を基に、他の投資家や運用会社がどの国の、どの債券を、どの程度、いつ売買したかを注意深く分析します。そうすることで、ザンビアやモザンビークのような発行量やトレーディング・ボリュームが少ない国においても、どのような資金フローがあるかを把握することができます。

投資先として「ベネズエラ」に可能性がある理由

幾田 御社の運用哲学において投資アイデアの確信度が非常に重要な位置を占めているようです。その結果を受けての判断かと思われますが、タイプIの投資割合がポートフォリオの20%を占めていますね。

 

ジャン 昨年まで組入比率が一番大きかったロシアを売却した後、ベネズエラが前述したタイプIに該当し、最も大きな組入比率となっています。ロシア債は昨年まで非常に好調で、ファンドのパフォーマンスに大きく貢献しましたが、その後、2015年末に市場が調整局面に入った時に全て売却しました。ロシアに変わって、アイデアとして上がってきたのが、ベネズエラです。

 

2013年にファンドのパフォーマンスに大きく貢献したアルゼンチンがそうであったように、ベネズエラは今、転換期を迎えています。ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を保有しており、過去18カ月における原油価格の急落が国の経済を直撃し、政治・経済の両側面から立て直しを迫られています。その過程で、徐々にではありますが、変革の兆しは見えつつあります。昨年12月の選挙では野党が勝利し、社会主義的な政策を進めてきたマドウロ大統領が敗北し、政治の新たな幕開けを迎えました。

 

ベネズエラの苦境は原油価格の下落だけが原因ではありません。原油価格が30ドルを下回ったとしても、これだけの埋蔵量を誇る国がこの様な経済破綻に陥ることはないはずです。問題は、組織全体を通して人為的にコントロールされた価格と為替が鞘取りと汚職を蔓延させる仕組みを容認していることです。

 

ベネズエラがアルゼンチンと同様にスムーズな変革を迎えるのか、混沌とした状況が市場にも大きなボラティリティを与えるのかは、見極めが難しいところではありますが、最悪のシナリオはデフォルトです。私達は、どの程度の返済能力があるか分析していますが、過去にデフォルトを起こした国々と比較して、ベネズエラの返済能力はかなり高いと見ています。

 

彼らには負債を返済するのに十分な量の資産がありますし、政府もデフォルト回避に強い意欲を見せており、実際に2016年2月末満期を迎えたソブリン債も償還され、発行済みの債券に対するクーポンも払い続けています。

 

また、アルゼンチンやギリシャと違って、ベネズエラには原油のみならず金などの資源に恵まれており、これらが安定的な外貨収入源となる可能性を秘めています。短期的な価格変動も見受けれるでしょうが、長期的には大きな飛躍の可能性を秘めていると思います。

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    本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、エドモンド・ドゥ・ロスチャイルドおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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