前回は、M&Aにおける「両手取引」は売り手、買い手のメリットについて説明しました。今回は、不動産の売買交渉テクニックを参考に、M&Aの交渉を有利に進める方法を見ていきます。

「出回り物件」と見なされると交渉は不利に・・・

前回の続きです。

 

不動産の売買にも似たような事情があります。ビルや土地、家を売りたいといった情報が、不動産会社に寄せられます。このとき、飛び込みで不動産屋をあたることもありますが、収益物件などでは長年管理を依頼していた不動産会社にまずは頼むことが多いでしょう。

 

不動産屋はいわばアドバイザーの立場です。売り手から来た情報を、まずは自分で握っている買い手候補に一人ずつ、それも密かに打診していきます。自ら買い手も探すことができれば、M&Aのアドバイザーと同様に「両手取引」でほぼ倍の報酬が得られるからです。

 

そのような“美味しい”話は、まずは自分で相対取引でマッチングを考えるのです。相対での買い手探しには限界がある場合に、初めて自社店舗に「売り家」と貼紙したり、さらには別エリアの同業の店舗にも手数料を払う約束で依頼したりして広く買い手を募ってもらうのです。M&Aでいえば、不動産物件の貼紙や他店への依頼は、苦手業種などで買い手探しを外注するようなものといえるでしょう。

 

不動産の買い手としても、そのように広く出回ってしまった「出回り物件」ではなく、自分だけに持ち込まれる物件に興味を示すものです。物件が出回るということは、それだけ魅力に欠ける何かがあると考えるのです。M&Aで、売却の意図がバレないように交渉を進めるのも、不動産でいう「出回り物件」扱いされないための配慮ともいえるでしょう。

交渉を有利にすばやく進めるための「両手取引」

余談になりましたが、会社も物件も、相対の交渉や取引で「両手取引」できれば、互いの事情もよくわかって話も早いうえに、希望条件の調整なども行いやすいといえるでしょう。

 

会社の売却を考えてM&Aのアドバイザーと買い手候補を物色する際は、「あなたが知っていて直接担当できそうな会社で、良さそうなところはない?」と、まず聞いてみるのも一法です。

 

見方を変えれば、両手の付き合い、取引ができるのもアドバイザーという立場ならではです。例えば弁護士はM&Aの後半ではデューデリジェンスなどに際して欠かせない存在ですが、彼らが一般にM&Aの実務に精通しているわけではありません。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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