前回は、不動産の売買交渉テクニックを参考に、M&Aの交渉を有利に進める方法を説明しました。今回は、地方企業のM&Aにおける留意点を見ていきます。

「東京」のアドバイザーにはわかりづらい地方の事情

地方の企業がM&Aの売り手になる場合、地域に密着したアドバイザーを選んで付き合っていくのも良い方法です。

 

例えば北陸3県は、北前船が行き来していた関係で、はるか以前の江戸時代から北海道との縁が深いのです。現在でもその伝統が受け継がれており、仕入れや販売を通じて、両地域の企業の交流が盛んです。必然的に、M&Aについても「北陸+北海道」という組み合わせがあり、絶対数では少なくても率としては高くなるのです。こういったことは、東京や大阪のM&Aコンサルティング会社ではなかなか実感としてはわかりづらいはずです。

 

また、金沢では通勤や通学で乗り換えを厭う風習があることも紹介しました。北陸以外の企業が買い手となって金沢などに進出を考える場合、そういったこともよく吟味して会社の立地などを選ぶ必要が出てきます。単に土地建物の路線価や時価を調べるだけではわからない点も多々あるということです。

 

誤解を恐れずにいえば、東京と大阪を除くすべての都市は「地方」であり、その地ならではの風習がある。そして、M&Aにあたっても、それらの事情を考慮する必要があると思うのです。

考慮すべき事情は地域ごとに異なる

聞いた話ですが、愛知県の“クルマ社会”は相当なもので、クルマ離れが進む東京の人にはわかりにくい面もあるとのことです。

 

名古屋駅近くのタワーマンションが一時期満室になったこともあるそうですが、高層マンションでは駐車場の設置比率が少なく、結局出て行く人も多いということでした。事実、愛知県は自動車の登録台数が全国最多で、より人口の多い東京都や神奈川県を上回っています。通勤はもちろん、通学でもクルマを使う学生が多いとのこと。

 

そのため、住居はもちろん会社でも、幹線道路に出やすい立地が好まれるというのです。それも単に幹線道路に近いだけではなく、一方通行などの制約の少ない立地が人気になるそうです。たしかに毎日の通勤通学がクルマなら、その気持ちもわかります。遠回りをして会社や家に向かうのであれば、面倒なだけでなく時間のロスも無視できません。

 

ということは、M&Aで名古屋に進出するケースでは、このような事情を多かれ少なかれ考慮する必要が生じるでしょう。また本業とは別に会社で収益不動産を所有するといった場合は、立地や駐車場比率が大きな判断材料になるはずです。

 

以上は一例ですが、九州にも近畿にも東北にも四国にも、そういった地方ごとの事情があるはずです。それらの各地域の事情に精通したアドバイザーなら、痒いところに手が届く対応をしてくれる可能性は高まるはずです。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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