新人が3ヵ月で退職すれば「100万円以上の損失」
離職率と医院の業績には大きな関係性があります。離職率が高いと、スタッフは仕事ができるようになる前に退職してしまい、採用から退職までにそのスタッフにかけたコストが、医院にとってまったくの無駄な出費となってしまいます。
参考までに、新規採用した新人スタッフが職場になじめずに、入社3ヵ月後に退職した場合どのくらいのコストが無駄になったかを計算してみましょう。仮に、求人広告代を5万円、応募者が5人で院長先生が1人1時間ずつ面接するとします。また、院長先生の時給は1万円、新人の月給は20万円で、新人は3ヵ月後に人間関係になじめずに退職したと仮定します。
辞めた新人にかかったコストを計算すると、
求人広告代 5万円
面接コスト 5万円(5人×1時間)
新人の人件費 60万円(20万円×3ヵ月)
⇒合計70万円
他にも新人のユニフォーム代や、新人の歓迎会にかかった費用、教育担当者が新人に仕事を教えるためにかかった時間の人件費を上乗せすると、新人が3ヵ月後に退職したときに無駄になったコストは合計100万円は軽く超えると思います。また、人間関係が改善されない限り、新人の退職はその後も続く可能性が高いので、退職者が出るたびにさらに100万円、また100万円と損失が膨らんでいきます。
職場の人間関係の悪化を放置すると、その代償は実のところ、とても高くつくのです。新人を積極的に採用するよりも、今現在医院で頑張って働いてくれている既存のスタッフを大事に扱いながら昇給したほうが、結果的には安くつきます。
「今年の昇給はいくらにしようか? 5千円? それとも1万円?」
「夏のボーナスはいくらにしようか?」
などと悩んでいる一方で、入社後間もない新人に職場の人間関係が原因で簡単に退職されてしまっては、昇給やボーナスの額に悩んでいることが馬鹿らしくなってしまいますよね。
「差し入れ」や「声かけ」で人間関係をメンテナンス
そこで、奥様には院内の人間関係のメンテナンス活動をしていただきたいのです。一般的に院長先生は診療中は患者対応、診療が終わった後は医師会活動、週末は研修への参加などで疲れきってしまい、よほどエネルギッシュな方でない限り、スタッフへ細かい心配りができる方は少ないのではないでしょうか? 特に男性の院長先生は、女性スタッフの細かい心の動きまで察するほどの余裕はないでしょうし、そもそも職場の女性同士の人間関係の中に入っていくのが億劫な方が多いように思います。
「人間関係をメンテナンスするなんていったいどうすればいいの?」
と思われるかもしれませんが、難しく考える必要は一切ありません。週に1回程度、スタッフの人数分(できればスタッフの子供の分まで)コンビニスイーツを買ってきて、
「いつもありがとうございます。本当に助かっています。よろしければお子さんの分もありますから持って帰って下さい」
と言って差入れをしてみて下さい。仮に1個250円のスイーツを10個買ったとしても、1回当たりたったの2500円程度(250円×10個)です。週に一回の差入れを3ヵ月間続けたとしても、かかるコストはたったの3万円(2500円×4週間×3ヵ月)です。新人に簡単に辞められたら100万円以上損することを考えれば安いものです。
私は税理士事務所を開業したばかりのころ、経営塾に通っていた時期があります。そのときに講師の方から「お金がかからないものをないがしろにすると逆にお金がかかる」という話をうかがいました。これは「今働いてくれているスタッフに感謝することなく、『ありがとう』や『頑張ってるね』の声掛けなど、まったくお金のかからないことを面倒くさがってしないから、職場の人間関係が悪化し、その結果退職者が増えて業績が悪くなるのだ」という意味だと私は受け止めています。
この塾に通っていたころは、私はまだ開業したばかりでスタッフの数も2名しかおらず、「へぇ、そんなもんか」などと呑気に講師の言葉を聞いていましたが、私もその後スタッフに関してそれなりに苦い経験をしたことで、その講師の言葉が身に沁みてわかるようになりました。
子育て中でなかなか診療現場のお手伝いができない奥様でも、月に何回かはスタッフへの差入れを持って顔を出し、「いつもありがとうございます」と言ってあげて下さい。きっと職場の雰囲気が良くなるはずです。気長に続けていくと、ちょっとずつ医院の業績は良くなるはずです。
1人あたりの福利厚生コストは「年間3~6万円」程度
数年前に弊所の顧問先クリニックに「年間でどのくらい福利厚生にお金をかけていますか?」というアンケートをとったことがあります。その結果は、平均は年間で約30万円でした。平均的なクリニックのスタッフ数が5~10人だと考えると、1人当たりのコストは年間で3~6万円程度ということになります。これは納涼会や忘年会も含んだ金額になりますが、この額を大幅に下回る場合は、意識的にスタッフさんに対して福利厚生活動をしたほうがよいでしょう。
また、以前に「ちょっとした食事会の開催や、おやつなどの差入れを年間どのくらいしていますか?」というアンケートをとったこともあるのですが、平均が約12回でした。おおむね1ヵ月に1回ということになりますね。これにはみんなでランチを食べに行くとか、ケーキを買ってきてその月のスタッフの誕生会を行うなどの小さなイベントも含まれます。さてあなたの医院はいかがでしょうか?
しかし福利厚生は無理して頑張りすぎないことが大事です。院長ご夫妻が飲み会が苦手なのに、福利厚生だからといって飲み会を開くのは苦痛ですよね。そんな場合は、スタッフにお金を渡して、「みんなで美味しいもの食べてきて! 領収書だけよろしくね!」というほうが無理なく長続きすると思います。
鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人 代表、税理士
1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒。福岡の大手会計事務所の医療機関専門の税務スタッフとして5年勤務の後、2008年医院専門の税理士事務所を開業。顧問先医院から最近受けた相談を紹介する「メルマガで学ぶ医業経営のポイント」およびYouTube「医院経営の教科書」も配信中。著書に『成功する開業医』(中央経済社)がある。
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