世界的な景気悪化を前にすれば、分散投資も効果はない
GPIFは、安全を旨とする年金資金を株式などリスク資産に運用することに関して、次のように説明している。
「年金金積立金の運用については、法律上、長期的な観点から、安全かつ効率的に運用を行うことが要請されています。国内債券、国内株式、外国債券、外国株式を組み合わせることによる分散投資効果によって、必要なリターン(期待収益率)を最低限のリスクで確保することが期待できます。」(GPIFウェブサイト「よくある質問」参照)
要するに、国債中心でなく、国内株式、外国債券、外国株式などのリスク資産に分散投資をすることによって、年金資金を長期的に安全・効率的に運用できるのだと主張している。それが、投資理論にも適かなっていると言うのだ。
しかし、リーマンショックのような世界的な景気悪化(システマティック・リスクと呼ばれる)に対して、分散投資は効果がないことを投資理論は教えている。事実、リーマンショックのときに、年金資金が大きな損失を出したのは、国債運用ではなく、株式運用を行っていたからなのだ。
株式運用の比率を高めることが、年金資金の長期的に安全で効率的な運用につながるとは決して言えない。この20年間、日本の株式市場がどのような経路をたどったかを思い出してほしい。
20年前に株式を買って今まで持ち続けた人は、すべからく大きな利益を得ただろうか。それどころか、大損をしたのではないか。決して、株式は長期的に見ても安定した収益が保証される資産ではないのだ。また、そういう時代ではないのだ。
それを、あたかもリスク資産に分散投資をし、長期で運用すれば確実に収益が得られるように言うのはまやかしである。国民をミスリードしている。政府は、本当に株式の高い収益性を信じて、年金資金を株式に投資しようとしているのだろうか。そうであれば、株式投資の真のリスクを知っているとは、到底言いがたい。
政府は株式の高い収益性を信じていないとすれば、年金資金は株式市場を引き上げ、さらにいっそう盛り上げるためだけに、使おうとしているにすぎない。
「国債価格が下がるから株式へ」という主張は詭弁
政府や一部の学者・評論家はさらに言う。GPIFは、国債運用の比率を下げ、リスク資産の運用を引き上げる理由として、インフレ下の国債の評価損を指摘する。これからインフレになると国債の利回りが上昇し、国債の値段は下落する。年金資金は大量の国債を買っているので危ない。これからは、国債の保有比率を下げ、その分、株式に投資するべきだ。だから、これからは国債から株式だというわけである。
しかし、国債の場合は途中で売ることなく満期まで保有すれば損は出ない。年金の会計は現金主義で、国債の値段が下がっても、含み損は計上されない、現金主義の会計である。したがって、含み損を恐れる必要はない。むしろ、インフレになれば国債の利息も上がるので、確実に収益を上げることができるのだ。そして、インフレになれば、国債の満期の構成を短期化して対応すればよい。
国債の値段が下がるから株式へという主張は、株式の運用を認めさせようとするための詭弁だ。
年金資金は、旧大蔵省資金運用部による財政投融資制度が廃止されてから、市場を通じて公団や政府関係の特殊法人、政府系金融機関に融資してきた。その後、国債の購入により、政府の財政赤字を支えてきた。
今度は、アベノミクスを支えるために、国債から株式市場のテコ入れや外債の購入による円安誘導のために、年金資金は使われる。いったい、誰のための年金資金なのだろうか。