今回は、基礎年金と生活保護を比較しながら、双方がどの程度セーフティネットとしての役割を果たしているかを見ていきます。※本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

「基礎年金プラスα」相当額が支給される生活保護費

サラリーマンや公務員は別として、自営業者の老後は基礎年金に頼るしかない。しかし、実際には奇妙な現象が起きている。世間体さえ気にしなければ、老後は、基礎年金を当てにするよりも、生活保護を受けたほうがはるかに安心だということだ。基礎年金は満額で6万5000円程度だが、生活保護は住居手当等を含めて優に10万円を超し、おまけに医療費もただである。

 

生活保護は、「ほとんど所得や資産がなく、生活に困窮している」と役所に申請すれば簡単に支給される。簡単に支給されるから、生活保護の不正受給があとを絶たない。生活保護制度の悪用だ。また、困窮者に生活保護を受けさせて、それをだまし取ろうとする生活保護ビジネスもあるというから驚きである。

 

生活保護費は、国が2/3、自治体が1/3を負担する。財政難から、生活保護の支給をしたくない自治体もあり、受給の可否については自治体によって差があるものの、現状では、生活保護の制度は、国民の最低限の生活を保障するセーフティネットとして十分機能している。

 

困窮している高齢者は、基礎年金を頼りに厳しい生活を送るよりも、生活保護を受けるほうがよっぽど安心だ。基礎年金と生活保護の二重の受給はできないが、生活保護を受ければ、[基礎年金プラスα]に相当する額が支給される。

 

このような現状は、公的年金そのものの存在意義に疑問を投げかける。基礎年金での暮らしが苦しければ、いっそのこと生活保護の適用を申請したほうが得ということになってしまう。だからこそ近年、生活保護の受給者が急増しているのだ。

 

2013年で生活保護の受給者数は約220万人。そして、その過半が65歳以上の高齢者である。これでは、「老後の生活の安心」は、公的年金制度ではなく、生活保護制度だということになる。

困窮する高齢者の急増が生活保護申請の急増に

当然のことながら、急増する生活保護費は政府の財政を圧迫している。政府は、1人当たりの生活保護費の削減や生活保護期間の短縮など、生活保護の歳出削減策を打ち出しているが、同時に、現役世代の生活困窮者に対しては、救済するだけでなく、働くことへの支援を進めている。

 

高齢者の生活保護と現役世代の生活保護は、分けて考えなければならない。現役世代の生活困窮は、働き口が見つからないことが原因である。したがって、職業訓練などを充実させ、できるだけ速やかに再就職できるように支援することが重要だ。

 

一方、高齢者で生活保護を受けようとしているのは、高齢で働けない人たちだ。本来、基礎年金が最低限の生活を支えるはずなのだが、現実は、基礎年金だけでは生活できない。現行の基礎年金は、高齢者に生活の安定・安心を与えられず、本来の役割を果たしていない。だからこそ、生活できない高齢者は、恥を忍んで生活保護を求めるのだ。

 

生活保護申請の過半は高齢者であることを見れば、生活保護の急増は、困窮する高齢者の急増と言い換えられるだろう。

 

これは基礎年金の制度が機能していないことの証左であり、基礎年金の問題が解消しない限り、生活保護費の歳出はますます増えていくものと予想される。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか──。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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