慢性疾患の治療が「出口の見えない戦い」になってしまう真因【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

医学が進歩し、新薬が次々と開発されているにも関わらず、がんや糖尿病といった慢性疾患は増加の一途を辿っています。現代人の死因の多くを占める慢性疾患を改善させるには、どうすればよいのでしょうか。小西統合医療内科院長・小西康弘医師は、慢性疾患に対処するには「機能性医学」に基づく治療法が必要であると指摘します。新連載「自己治癒力を高めるための機能性医学」、第1回目は機能性医学は現在の医療に何を提起することができるのか?ということについて考えていきたいと思います。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

どうして今、機能性医学なのか?

疾病構造の変化により、治療が難しい「慢性疾患」が増加

機能性医学とは、一言で言うと、単に症状を取ることを目的とした対症療法ではなく、その症状が起こってくる根本原因になっている「身体のバランスの崩れ」を整えていこうという治療です。現代社会ではこのような考えに基づく治療法の必要性が高まっています。その理由の一つとして、疾病構造が変化してきたことが挙げられます。

 

細菌が感染症を起こすことを発見したのはドイツの細菌学者コッホで、1876年のことでした。それを克服したのは1928年、フレミングがペニシリンを発見した時です。およそ50年の年月を必要としました。抗生物質が発見されるまでは、出産時の細菌感染による産じょく熱が多く、日本では年間2000人以上が死亡していました。その後、産じょく熱で死亡する人数は年を追うごとに減り、現在では10人以下になっています。

 

つまり100年ほど前までは、感染症などの急性疾患で死亡することが多かったのに対し、抗生物質の発見によりその割合は劇的に減少しました。代わりに増えてきたのが、がんや糖尿病、あるいは心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などの動脈硬化を原因とする慢性疾患なのです。感染症を代表とする急性疾患では、抗生剤を投与して病原菌を退治すれば病気は治りました。原因と病気や症状との関係が単純だったのです。しかし、慢性疾患が増えるに従って、同じような考え方が通用しなくなってきています。

「急性疾患中心の医療」から「慢性疾患中心の医療」への転換が必要

現在では慢性疾患がその死因のほとんどを占めるに至っています。当然、慢性疾患に対しては急性疾患とは違うアプローチが必要なはずですが、その違いを必ずしも認識しているとはいえません。慢性疾患では原因が一つとは限らず、その根本的な原因の究明が重要ですが、薬を処方する医師の側の意識といえば、感染症に対して抗生剤処方する時と変わっていないのです。

 

糖尿病と診断されれば血糖を下げる治療を行う。それで十分に下がらなければまた薬を追加する。そういう図式になっているのです。一つの薬で症状や病気が改善しなければ、また別の薬を出す。そして、どんどん薬が増えていく。これでは急性疾患を見るときの意識となんら変わりません。

 

その結果、日本では糖尿病、高血圧症、がん、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病が国民医療費42兆円のうち約3割を占めています。では、それだけの医療費をかけた結果がどうなのでしょうか?

 

いくら医療費がかかったからと言っても、それで病気が克服できて、治ったという状態になるのであれば十分価値があると思います。

 

厚生労働省の患者調査における傷病に関する報告によると、2008年と2017年の10年間で比較したところ、高血圧症疾患は796.7万人から993.7万人と197万人増加、糖尿病は237.1万人から328.9万人に91.8万人増加しています。脳血管疾患は133.9万人から111.5万人に22.4万人減少しています。

 

がんの罹患患者数を年齢調整率(寿命が伸びた分を差し引いた値)で見ると2000年から2010年にかけて増加傾向にありましたが、2010年以降は減少傾向にあります(しかし、実数で見ると、がんに罹患する患者数は増加の一途を辿っており、長生きすればするほどがんになりやすくなるという別の問題があります。このことに関してはこれからの連載で取り上げていきます)。

 

これらの慢性疾患は基本的には、「もう治って治療する必要はない」とはなりません。生きている限り治療を続けなければなりません。そして、慢性疾患による死亡の割合は全体の約6割に及んでいます。

 

このように見てくると、医学が発達して、いろいろな治療や薬が開発されているにも関わらず、出口の見えない戦いをしているようにも思えます。これは、起こってしまった病気に対して、対症療法で対応しているからでしょう。このことが、これまでの急性疾患中心の医療から慢性疾患中心の医療にパラダイムシフトしなければいけないということを何よりも雄弁に物語っていると、私には思われます。

 

病気が発症しないようにするためにはどうすればいいのか?という新しいパラダイムへのシフトです。

慢性疾患における「症状」は、いわば氷山の一角

では、慢性疾患は急性疾患と比べて何が違うのでしょうか? 次にそのことを考察していきたいと思います。

 

慢性疾患では、同じ病気でも原因は単純ではなく、人によって異なる場合があります。それに対して、現代の標準的医療では症状を取るため、同じ薬を用いて治療がされます。たとえば、頭痛の原因は色々あっても、CTを取って異常がなければ(つまり、脳腫瘍などの器質的な異常が発見されなければ)、鎮痛剤が処方されます。これは対症療法でしかなく、根本的な原因を追求してそれを治療しているわけではないのです。

 

では、このような慢性疾患に対して、薬を一つ一つ足していく以外にどのような方法を私たちは取ることができるのでしょうか? この疑問に答えていくことが、この連載で一番の目的とするところです。現代に多くを占める慢性疾患を治療する上では、複雑化している病因に対して土台を整える根本的治療が必要です。

 

根本治療? 土台を整えるだって?

 

そんなことが可能なのか、と思われたかもしれません。

 

最新の研究では、慢性疾患はその根本に慢性炎症が関係していることがわかってきました。「慢性疾患の陰に慢性炎症あり」なのです。

 

「氷山の一角」という言葉がありますが、この例えを使って説明すると、さまざまな症状や検査値の異常は、氷山のうち海面上に出ている「氷山の一角」でしかありません。私たちはこの一部分だけを見て、あれこれ診断し、治療を行なっているのです。しかし実際には、本当の原因は海面の下にあります。私が「身体の土台」と表現するときには、この海面下にある氷山の本体の部分を指しています。

 

機能性医学では、この海面下にある、身体の土台に起こっているバランスの崩れた状態をきっちりと評価して治療していきます。その具体的な方法はこれからの連載で書いていきますが、今回はこの「氷山の一角」の例えが真実であるとして話を続けます。だとすれば、私たちに何ができるのでしょうか。

 

答えは、病気に対する標準的な治療に加えて、身体の土台にある炎症をコントロールすることで病気自体の予後が改善できるのです。何だかよくわからないけれど、慢性炎症を抑えることは、確かに慢性疾患をコントロールする上では役に立ちそうだな。今回はそれだけを理解していただければ結構です。海面の上に出ている症状を薬で抑えるのではなく、その土台になっている、海面下の身体のバランスの乱れを整えることで、病気にならない身体を作ることができるのです。

 

 

そのようなアプローチが本当にできるのかと思われる方も多いと思います。この連載では、それが本当に実現可能であるのかについて紹介していきます。では、次回の記事では「炎症とは何か?」「慢性炎症は何が原因で起こるのか」について詳しく見ていきましょう。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医
医学博士

天理よろづ相談所病院・京都大学消化器内科などで内科全般を研修し、消化器内科を専門とする。内科医として約20年病院勤務。現在は、小西統合医療内科院長として、機能性医学を柱とした統合医療の立場から診療に携わっている。

【小西統合医療内科HP:https://www.konishi-clinic.com/

機能性医学に関する情報をFBなどで発信しています。
下のリンク集をご参照ください。
https://lit.link/doctorKonishi

著者紹介

連載自己治癒力を高めるための機能性医学

自己治癒力を高める医療 実践編

自己治癒力を高める医療 実践編

小西 康弘

創元社

病気や症状は突然現れるのではなく、それまでの過程に、自己治癒力を低下させるさまざまな原因が潜んでいます。だからこそ、対症療法ではなく根本原因にまで遡って治療を行うことが重要なのです。 本書では、全人的な治癒を…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧
TOPへ