税理士関与無しだと、相続税の税務調査を受けやすい
相続税の申告書は、税理士が作成する割合が非常に高いです。たとえば平成29事務年度 国税庁実績評価書 (財務省)の資料によると、平成29年度の相続税の申告書の税理士関与割合は、84.4%にもなります。
相続税の申告書は、必ず税理士に依頼して申告しなければいけないというものではありません。相続人のみで申告書を作成できれば、税理士報酬を支払う必要が無いので、出費は抑えることができます。
しかし、相続人のみで作成した申告書は税務署からの指摘を受けやすく、ペナルティの税金を支払うリスクを伴っているので注意が必要です。
相続人が作成した申告書は計算誤りが多い
相続人として相続税の申告書を何度も作成したことのある人は少なく、ほとんどの相続人は初めて相続税の申告をすることになります。
相続税の計算では、相続財産の評価額を算出してから税額計算をします。財産評価額の金額を間違えば相続税の税額も全て変わってくるので、正しく申告するのが難しい税目です。
また、税務署にとって計算誤りは、指摘しやすい項目です。計算誤りが判明した場合には、申告書全体をチェックしますので、実地調査に移行する可能性が高まります。
相続人でも相続財産を把握できないことがある
相続税は所得税の税金とは異なり、自分ではなく亡くなった人(被相続人)の財産に基づき申告をします。
同居していた親族であれば、被相続人の財産状況を把握しているかもしれません。ただ、相続人が把握できる範囲にも限界があるので、探しきれない財産も出てきます。
一方税務署は、申告書の内容以外からも被相続人の財産を把握する手段を持っています。相続税の申告の提出を受けた後、申告財産と申告漏れの財産を確認し、申告漏れの財産があれば税務調査によって指摘をします。
相続人だけで正確に法令解釈を理解するのは難しい
相続税は、被相続人が人生で築き上げた財産に対しての課税です。対象となる財産は、不動産・預貯金・株式など、被相続人が保有していたすべての財産です。その中でも不動産は、相続税のための評価額の計算が必要であり、特例制度により評価額が8割下がる可能性もあります。
しかし、税務署が積極的に特例制度についての指導をすることはありませんので、節税となるような特例制度の適用は相続人自身で行うことになります。適用要件を満たしていても、特例制度の存在を知らなければ適用はできませんので、法律を知らないことが損失に繋がります。
逆に、特例制度の要件を満たしていないにも関わらず特例を適用した税額で申告を行い、後から税務署に特例が適用できないことを指摘されて追徴課税を受けるというケースもあります。過不足なく相続税申告を行うためには相続税に関する法令への正確な知識や理解が必要となりますが、相続人自らが、相続が発生した後に相続税の知識を全て正しく身に付けるのは困難と言えます。
税理士に依頼することで税務調査割合が減少する理由
相続税の税務調査は、税理士に依頼することでリスクを少なくできます。しかし、税理士関与割合は8割を超えますので、税理士に依頼しただけで税務調査が来なくなるわけではありません。
税務調査のリスクを回避するためには、税理士の中でも相続税に精通している税理士に依頼することが重要です。相続税専門の税理士は相続税の知識があるのもちろんのこと、調査対象となるポイントも熟知しているので、高い確率で調査を回避することができるのです。
相続税の調査で最も指摘が多いのが預貯金漏れ
相続税の調査で最も指摘が多いのが、預貯金の申告漏れです。国税庁が公表している「平成29事務年度における相続税の調査の状況について」によると、平成29事務年度の現金・預貯金の申告漏れは34.1%と、全体の1/3以上です。
現金・預貯金の申告漏れが多い理由としては、相続財産で最も隠しやすい財産だからです。ただ、税務署も現金・預貯金の性質を理解していますので、生前に預金移動が多かった被相続人については、調査対象になりやすい傾向があります。
海外財産を保有しているだけで税務調査の対象になりやすい
節税対策として、海外に財産を移転する人が増えてきています。海外資産の保有は節税効果がある一方で、国税庁も海外資産の申告漏れの取り締まりには特に力を入れています。
たとえば平成29事務年度に税務署が相続税の実地調査をした件数は12,576件ですが、そのうち海外関連事案の調査件数は1,129件と、全体の1割近くにもなります。
海外資産を持っているだけで、必ず実地調査になるわけではありません。しかし、海外資産を正しく申告している事実を税務署に伝えないと、確認調査を受ける可能性が高くなります。
税理士の書面添付は税務署も推奨している制度
税務署は慢性的な人材不足を少しでも解消するために、効率的な調査を実施しています。調査事項があれば解決するまで調べますが、調査の必要が無いと判断すればむやみに調査をすることはありません。調査効率化の一環として税務署が推進しているのが、書面添付制度(税理士法第33の2条)です。
書面添付制度とは、税理士が税務署の代わりに相続人に相続税の財産についてのヒアリングを行い、ヒアリング結果を申告書に添付する制度です。税務署は書面添付制度を利用した申告書の内容確認をする場合、申告した人ではなく、ヒアリングをした税理士に話を聞かなければなりません。
また、ヒアリングをした税理士が税務署に適切な回答をすれば調査には移行しませんので、実地調査が行われるリスクを下げる手段として書面添付制度は有効です。相続税に精通している税理士であれば、預貯金の移動状況や海外資産の聞き取りなど、税務署が重点項目に上げているポイントをヒアリングするので、税務署にとって価値の高い書面添付となります。
相続税専門の税理士への依頼は節税と税務調査リスク回避効果がある
相続税の税務調査対象にならないためには、正しい申告書を作成し提出する必要があります。適正な申告書を提出すれば税務署も調査をする必要がありませんので、最も調査リスクを下げる方法です。そして、正確な申告をするためには、相続税申告に精通した税理士に依頼することが重要です。
税理士というと全ての税目に精通しているように考えられがちですが、医者に内科、外科、皮膚科と専門があるように、税理士にも法人税、所得税、相続税と専門があり、更に相続税を専門とする税理士は多くはありません。税理士へ依頼することはもちろんですが、依頼する税理士を慎重に検討することも忘れないようにしてください。
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