(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年12月9日に公開したレポートを転載したものです。

2022年の米国金融環境、高インフレは短期的

2022年の金融環境を楽観的に考えられる第1の理由は、今のインフレが一過性であること。第2の理由は、長期的な金利低下の趨勢が続き、経済や金融のアンカーになるということである。

 

あえてリスクを考えれば、短期的なインフレ高進に対してメディアや政策当局が不満を高め、過剰な引き締めが一時的金融ショックを引き起こすという可能性である。

 

供給制約によるインフレと企業の求人難

 

今のインフレはほとんどがサプライチェーンの寸断による供給制約といってよい。コロナ禍で安易に雇用削減をした結果、トラックの運転手が不足し、コンテナの循環が止まってしまった。それがコンテナを満載した船が港の外で立ち往生するという事態をもたらしている。

 

このようなサプライチェーンの問題、つまり供給制約によって引き起こされる物価上昇は金融政策では抑えられないということは、経済の歴史が我々に教えてくれる。金融引き締めで需要収縮を誘導してもサプライサイドの制約は消えない。このことを米国の政策リーダーも市場も理解している。

 

本当に持続的なインフレが起きるとすると、それは賃金上昇と物価上昇のスパイラルである。賃金が際限なく上がり始めるかどうか検討してみる。

 

図表2で労働参加率を見ると、コロナが起きる前の63%から一気に60%まで落ち込み、今回復したとはいえまだ61%台、つまり労働市場から離れた労働者が半分は戻ってきていない。基本的には潜在的労働力余剰が充分にあるといえる。

 

しかしながら不思議なことに、図表3の中小企業求人未充足率は過去最高であり、企業の求人難は空前のレベルに達している。

 

さらに図表4に見るように米国の離職者数はコロナ前の水準どころか、史上最高の水準まで高まっている。

 

この一見不可解な現象をどのように読み解けばいいのだろうか。労働者の選択肢が大きくなり給料や労働条件によって職を選びはじめている、といえるのではないか。

 

[図表2]米国労働参加率/[図表3]米国中小企業求人未充足率と失業率/[図表4]米国離職者数
[図表2]米国労働参加率/[図表3]米国中小企業求人未充足率と失業率/[図表4]米国離職者数

 

米国労働市場で起きている「労働力配置の最適化」

 

しかし、それはすべての労働の分野において起こっていることではなく、局地的現象というのが今の特徴である。

 

セクター別の実質賃金の推移を見ると、全体で見れば、製造業もサービス業もまだ賃金上昇傾向に入っていない。

 

しかし細分類のセクターを見ると運輸・倉庫や娯楽・エンタメ部門だけ急速に賃金が上昇している。それらのセクターの中でも非管理労働者、管理職以外の人つまり、トラックの運転手や、あるいはレストランのウエイトレスなどの給料は大幅に跳ね上がっている。

 

他方、通常のオフィスワークはコンピューターの発展によって省人化され前ほど人はいらなくなっている。

 

アメリカの労働市場では新しい労働環境の下での労働力配置の最適化が起きている、といえる。全般的な労働需給のひっ迫が全般的賃金インフレをもたらすという条件にないということはほぼ明らかであろう。

 

[図表5]米国セクター別実質賃金推移 全労働者、平均時間給(ドル)
[図表5a]米国セクター別実質賃金推移 全労働者、平均時間給(ドル)

 

[図表5]米国セクター別実質賃金推移 非管理労働者、平均時間給(ドル)
[図表5b]米国セクター別実質賃金推移 非管理労働者、平均時間給(ドル)

 

時期尚早の、金融引き締めには注意が必要である。時期尚早の金融引き締めでマーケットがショックを受けたのが、2018年の2月と10月の株価下落である。政策金利上昇過程でイールドカーブ(長短金利差)がフラット化しその後に株価ショックが起こった。 2018年の2月の株価急落の前に利上げが5回行われた。

 

米国株式市場ではthree steps and a stumble、つまり3回までは利上げは大丈夫だが、その後株価は急落をするという格言がある。つまりイールドカーブとその利上げの回数、この辺のところを見ておく必要がある。

 

[図表6]米国イールドカーブ推移
[図表6]米国イールドカーブ推移

 

次ページ長期金利の低下基調が終わっていないといえるワケ

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