バイデン政権の対中姿勢…前政権との違い
バイデン政権が発足してから11カ月が過ぎ、対中政策でトランプ政権時とは違った面も目立つようになってきた。民主主義対独裁専制という価値観対立の観点はトランプ政権とは変わらない。しかし外交面で中国を包囲する動きはトランプ政権よりは踏み込んだものとなっている。
インド太平洋地域への関与強化は、AUKUS(米英豪による軍事技術共有)、Quad(米日豪印戦略対話)などが相次いで開催され、各種のイニシアティヴが打ち出された。アフガン撤退も中国を睨んだアジア太平洋地域への注力が狙いである。
さらにバイデン政権は強制労働に代表される人権問題に力を入れている。3月にUSTRは、新疆ウイグル自治区での人権侵害を最優先課題に挙げ、同自治区産の綿・トマト製品輸入を全面的に停止した。また6月には太陽光パネル関連製品の輸入に一部制限を導入している。
場合によっては「米中協調」の演出も
しかし他方で、対中姿勢が軟化していると見える要素も多い。気候変動、軍事、貿易、安全保障などの分野で協議が再開されている。スコットランドにおけるCOP26での共同宣言、11月16日の米中首脳らによる衝突回避ルールづくりのためのオンライン会談など、協調の場面が増えている。
特に意外なのは、中国を排除した国際サプライチェーン(EPN)構築が、看板倒れになりそうな気配である。安全保障上の要請による①輸出管理、②対米投資審査の強化、③政府調達における中国品の排除などは、トランプ政権からの路線を踏襲しているとされている。
しかし実際には半導体関連はほとんどデカップリングできていない。EUV(極端紫外線)装置等の最先端機器以外は、エンティティーリストに挙げられた企業への機器輸出の大半が認可されている模様である。
WSJは2020年11月から2021年4月の間に米商務省はファーウェイ向け輸出許可610億ドル(認可率69%)、SMIC向け420億ドル(認可率90%)合計1000億ドル以上を許可したと報道している(10月22日付)。
半導体製造装置の対中輸出が急増している。2021年第1~3四半期の世界半導体製造装置販売額は752.3億ドル、前年比45.5%増であったが、このうち中国は214.5億ドル、前年比56.5%増と平均を上回っている。1~3四半期の中国の世界シェアは29%と韓国26%、台湾24%、日本7%、北米7%を大きく上回り世界最大となっている。
米国半導体製造装置業界トップのアプライドマテリアルの2021年度売上額は前年同期比34.1%増の231億ドルであったが、うち75.3億ドル(全体の33%)と最大の仕向先が中国である。
このことは米国通関統計による中国へのハイテク製品輸出が2021年1~9月累計で278億ドル、前年比27%増と全体の伸び率16%を大きく上回っていることからも確認できる。
図表2は2020年12月時点のSEMI(国際半導体装置材料工業会)による半導体製造装置出荷額の見通しである。中国は2020年世界最大市場になったものの、2021年以降、米国の対中輸出規制から大きく減少するだろうと予想されていた。しかし、実際は世界最高の伸びを続けているのである。
半導体投資額は将来の半導体生産シェアの先行指標であると見られることから、米国による中国への半導体装置供給容認は、中国のハイテク製品の供給力を一段と強めることになる。
「もし米国半導体業界が中国顧客へのアクセスを失ったら、最大1240億ドルの生産が消失し10万人以上の雇用が危機にさらされ、120億ドルのR&D費、130億ドルの設備投資が脅かされる。
航空機で中国へのアクセスが失われれば年間510億ドルの売り上げを失う」(バロンズ)・・・等々の業界団体のロビー活動に押されているのであろう。
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