●市場はパウエル議長の議会証言におけるテーパリングと物価に関する見解をタカ派的と受け止めた。
●これまで慎重に市場との対話を進めてきたパウエル議長だが、今回は市場への配慮が欠けていたか。
●ただ詳しく検証すると市場の受け止めほどタカ派的でなく、早期利上げへの過度な警戒はまだ不要。
市場はパウエル議長の議会証言におけるテーパリングと物価に関する見解をタカ派的と受け止めた
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長とイエレン米財務長官は11月30日、上院の銀行、住宅、都市問題委員会に出席し、「コロナウイルス支援、救済および経済安全保障法(通称、CARES法)」に関する証言を行いました。パウエル議長は今回、上院議員らの質問に答える形で、量的緩和の縮小(テーパリング)と物価について自身の見解を述べましたが(図表1)、市場はその内容をタカ派的と受け止めました。
テーパリングのスケジュールは、11月2日、3日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で決定、公表されていましたが、パウエル議長は、テーパリングの数ヵ月早い終了の検討が適切と述べ、次回12月14日、15日のFOMCで議論する意向を示しました。また、物価の上昇について、これまでFRBは「transitory(一時的)」との立場でしたが、パウエル議長は、この言葉を使わないようにする良い時期だとも述べました。
これまで慎重に市場との対話を進めてきたパウエル議長だが、今回は市場への配慮が欠けていたか
パウエル議長の発言を受け、11月30日の米10年国債利回りは大幅に上昇し、ドル円はドル高・円安が進行しました(図表2)。
米株式市場では、新型コロナウイルスの新たな変異型である「オミクロン型」の感染が世界的に広がる中で、パウエル議長がタカ派に転じたとの動揺が広がり、ダウ工業株30種平均は、前日比461ドル68セント(1.3%)下落しました。
パウエル議長はこれまで、テーパリングの開始時期について、市場を混乱させないように極めて慎重に、市場との対話を進めてきました。このような経緯を踏まえると、オミクロン型への警戒が強まるタイミングでの今回のパウエル議長発言は、従来のような市場への配慮が欠けているようにも思われます。そこで、以下、今回の発言について、もう少し詳しく検証してみます。
ただ詳しく検証すると市場の受け止めほどタカ派的でなく、早期利上げへの過度な警戒はまだ不要
パウエル議長は、次回のFOMCまでに、物価や雇用に関するデータと、オミクロン型の進展についても確認していくと述べています。そのため、テーパリングの早期終了はまだ確定ではなく、これらを精査した結果次第、ということになります。また、物価については、来年にかけて平均2%程度の伸びに落ち着くとの従来の見解も示しており、パウエル発言は実際のところ、市場の受け止めほどタカ派的ではないと考えられます。
なお、米国における足元の物価上昇は、主に供給制約に起因するもので、供給制約が解消すれば物価上昇圧力は後退することになります。そのため、少なくとも連続利上げで対処する問題ではないと思われます。また、仮にテーパリングが早めに終了したとしても、それは直ちに利上げを意味するものではありません。従って、早期利上げに対する過度な警戒は、まだそれほど必要ないとみています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『パウエル議長の議会証言における発言について』を参照)。
(2021年12月3日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト