米量的緩和の早期終了でも市場への影響は限定される可能性 (※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●市場では11月の米失業率低下を踏まえ、やはりテーパリングのペースは加速との声が多く聞かれた。

●そもそも量的緩和は、金融市場の機能が毀損された場合に政策金利の緩和効果を助ける政策。

●今回機能の毀損はなく量的緩和は役割をほぼ終えたため早期終了でも市場への影響は限定的。

市場では11月の米失業率低下を踏まえ、やはりテーパリングのペースは加速との声が多く聞かれた

12月3日に発表された11月の米雇用統計では、事業所調査に基づく非農業部門の就業者数は大きく伸び悩んだ一方、家計調査に基づく失業率や労働参加率は改善がみられました(図表1)。今回は、米労働市場に関する判断が難しい結果となりましたが、市場では、失業率の低下を踏まえて、量的緩和の縮小(テーパリング)ペースは加速するとの声が多く聞かれました。

 

(出所)米労働省、Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]11月の米雇用統計(出所)米労働省、Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

米連邦準備制度理事会(FRB)は、量的緩和政策により、国債を800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル、毎月購入していました。しかしながら、11月2日、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、11月から国債は100億ドル、MBSは50億ドル、毎月の購入額を減らすことが決定されました。次回12月14日、15日のFOMCでは、さらに購入額を減らす検討がなされる見通しです。

そもそも量的緩和は、金融市場の機能が毀損された場合に政策金利の緩和効果を助ける政策

市場では、テーパリングのペースが加速することに対し、警戒を強める向きもみられますが、ここで改めて量的緩和政策の役割を考えてみます。金融政策の波及経路は一般に、銀行間の翌日物金利が出発点となります。市場参加者が将来にわたって翌日物金利の変動を予想した場合、より期間の長い金利が変動し、これが企業や家計の支出行動や銀行の与信行動などを変化させ、経済活動に影響を与えることになります。

 

伝統的な金融政策では、政策効果がこのような形で波及しますが、それにはまず、金融市場が十分に機能していることが前提となります。非伝統的金融政策の1つである量的緩和政策は、金融市場の機能が毀損された場合において、中央銀行自らが国債などの購入を通じてその機能を補完し、政策金利が本来持つ緩和効果の実現を助けることを目的とする政策です。

今回機能の毀損はなく量的緩和は役割をほぼ終えたため早期終了でも市場への影響は限定的

2008年のリーマン・ショックに起因する金融危機では、金融機関が巨額の損失を抱え、深刻な信用収縮が発生し、金融市場の機能が大きく毀損しました。そのため、当時の量的緩和は金融機関への流動性供給に主眼が置かれました。一方、今回のコロナ・ショックでは、信用収縮は発生せず、金融市場の機能も大きく毀損した訳ではありません。そのため、今回の量的緩和は金融機関の融資を通じた家計や企業への流動性供給に主眼が置かれました。

 

家計と企業の流動性について、2020年3月末と2021年6月末の残高を比較すると、いずれも20%超増加しています(図表2)。量的緩和や政府の現金給付は一定程度、成果をあげており、今回の量的緩和の役割は大方終了したと考えられます。量的緩和が早目に終わっても、それは直ちに利上げを意味するものではなく、また、FRBのバランスシート規模は当面維持される見通しであることから、金融市場への影響は限定的と思われます。

 

(注)流動性は当座預金・現金、定期預金・貯蓄性預金の合計。 (出所)FRBのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]米国の企業と家計の流動性 (注)流動性は当座預金・現金、定期預金・貯蓄性預金の合計。
(出所)FRBのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米量的緩和の早期終了でも市場への影響は限定される可能性』を参照)。

 

(2021年12月6日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、運用や調査経験豊富なプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの情報発信を行っています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、年間で約800本の金融市場・経済レポートの発行の他、YouTube等の動画、Twitterでの情報発信を行っています。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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