(※写真はイメージです/PIXTA)

あづみハッピー歯科医院院長の安積中氏は、小学1年生のとき、近所の歯科医院にフェラーリが停まっているのを発見したことをきっかけに「歯医者になる」と決めました。歯医者になればフェラーリに乗れる…そう考えたのです。しかし高校2年生の3学期になるまで、歯科医志望という目標を周囲に打ち明けることができませんでした。かつて「他人から笑われること」を恐れた筆者が、夢を公言して気づいた意外な事実とは?

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「頑張る姿を見られたくない、他人に笑われたくない」

「歯科医になりたい」という目標を公言したことによって勉強に取り組むようになりましたが、「笑われたくない病」はまだ治っていません。笑われたくない病とは、勝手に私が名付けましたが、誰かに笑われたり、馬鹿にされたりして傷つくことを過度に恐れる心理状態のことを指します。

 

私がこの病気を発症したのは、中学校の頃です。中学2年生のとき、新聞配達のアルバイトをして、自分で稼いだお金で自転車を買いました。自分が欲しいものを自分の力で手に入れ、周りに「すごい」と称賛されたことにすっかり味をしめた私は、勉強にも力が入るようになりました。塾には通っていませんので、勉強といえば学校の勉強のみです。

 

ただ、新聞配達で早寝早起きする健康的な生活習慣が脳に良かったのか、アルバイトと勉強を両立している充実感が良かったのか、成績はこれまで悪かったのがウソかのようにみるみる伸びていきました。

 

中学校は1学期と2学期に中間テストと期末テストがあり、3学期は学年末のテストがあります。その都度、先生が成績優秀者を発表します。私はいつも上位の成績を取ることができ、学年300人以上いる生徒のなかで1位になったこともありました。すると、周りの人たちが称賛してくれます。

 

「あいちゅん(私のあだ名)、すげえな」

「ホンマに塾に通ってへんの?」

「新聞配達してんのに、いつ勉強してるん?」

 

これがたまらなく快感でした。涼しい顔をして「今回は5位か。もっと下かと思ってた」とか生意気なことを言って、心のなかで満面の笑みを浮かべるのです。この経験が「笑われたくない病」を生み出しました。

 

努力して学力を伸ばすという点は良かったのですが、「努力する姿は見せず、スマートに振る舞う」ことに思い切り自己陶酔してしまったのです。そればかりか、「努力する姿を見られると、努力が実らなかったときに笑われる」と考えるようにもなりました。そこで、笑われないための予防線を張ることにしました。

 

つまり、努力する姿を見られないようにし、全然努力していない雰囲気を漂わせることによって、成果が出せなかったときに「俺はまだ本気出してへんからな」と言い訳できるようにしようと考えたのです。周囲に歯医者になる目標を公言しなかったのも、なれなかったときに笑われるのを防ぐためです。

 

歯医者になると言えば、「安積が? 無理やろ」「タクシー運転手の子どもが歯医者になれるわけないやん」などと笑われるかもしれません。歯医者になれなかったとき、「ほれ見てみ、やっぱり無理やったやん」「どうせ無理やと思った」などと笑われるかもしれません。そういう恐怖にとらわれて、私は目標を胸の内にしまっておくことにしました。

 

本心では絶対に歯医者になりたいと思っていましたが、その思いを隠すことにより、「本気で目指してるわけじゃない」「だから、なれなかったとしてもショックじゃない」という逃げ道をつくっていたのです。

本当に笑われたくなったのは「歯医者の夢」ではなく…

逃げ道をつくり、いつでもそこに逃げ込めるようにしていた私とは対照的に、中学時代からの親友は早いうちから「京大に行く」と周囲に公言していました。彼も学年1位を取るくらいの秀才で、学力向上を目指して切磋琢磨できる友達でしたし、彼も私を同じように評価してくれていたと思います。実は彼にだけは歯医者になる目標を打ち明けていました。

 

「安積は将来、どうするん?」

「俺か? 俺は歯医者になる」

 

私は素直に答えました。

 

「え? 歯医者志望やったん?」

 

彼が驚いたのも無理はありません。彼は私の家が貧乏だと知っていましたし、歯医者は「世襲」が多く、お金持ちの家の子がなるものというイメージもあったはずだからです。

 

しかし、その親友は少し考えて「安積やったら、頑張ったらなれるんちゃう?」と励ましてくれました。信頼する友達にそう言われたことで、自信となり、私は本当に歯医者になれる気がしました。ただ、彼以外に目標を教えるつもりはありませんでした。

 

「ありがとう。でも、みんなには言わんといてな」

 

そう言って釘を刺しました。

 

「なんで?」彼が聞きます。

 

「俺が歯医者なんて、笑われるかもしれへんやん」

 

「そうかなあ。なれそうやけどな」

 

彼はそう言ってくれましたが、私は「安積が歯医者?」と思われたり、なれなかったときに笑われる恐怖感がどうしても拭えなかったのです。

 

彼は「京大に行く」と公言するだけでなく、京大卒業後の計画もきちんと考えていました。大学を卒業し、こういう会社に入る。そこで、こんな研究をする…。彼の話を聞き、計画が具体的だったことに感心しました。

 

私には歯医者になる目標がありましたが、その道のりは描けていません。具体的になっているのは「フェラーリに乗る」という点のみで、目標というよりは夢や妄想に近い状態でした。私が笑われたくないと思っていたのは、歯医者になる目標ではなく、歯医者になるための道のりが描けていない実態だったのです。

大勢に笑われる目標=人生を賭ける価値がある目標

中学校には、京大を目指す親友以外にも大きな目標を公言していた同級生がいました。彼は「プロ野球選手になる」と公言し、有名なリトルリーグのチームに入っていました。中学3年生で身長182センチ。彼が出場するリトルリーグの試合には複数の高校からスカウトが見にきていました。体格的にも能力的にも、本当にプロ野球選手になれそうな雰囲気がありました。

 

ただ、そうはいってもプロの世界は厳しいものです。難易度を単純に比べることはできませんが、歯医者になるよりもはるかに難しいと思います。街を歩いていて歯科医院を見かけることはしょっちゅうですが、プロ野球選手と出会うことはまずありません。それくらい難しい挑戦ですから、周りには「無理やろ」「プロはさすがに…」と言う人もいました。

 

しかし、彼はそんな言葉などまったく気にすることなく、ひたむきに努力し、練習に打ち込んでいました。周りになんと言われようと、「プロなんて」と笑う人がいたとしても、そんなことは関係ありません。逃げ道をつくろうとする素振りすらありません。その姿を見て、素直にかっこいいと思いました。そう思ったのは私だけではありません。夢に向かって取り組む姿を見て、応援する人が増えていきました。

 

中学を卒業して、彼は多くのプロ野球選手を輩出する名門校であるPL学園に進学しました。そして、高校3年生のときに夏の甲子園に1番センターで出場し、見事、優勝をつかみました。たまたまこの年(1983年)のPL学園は、清原、桑田のKKコンビが1年生として入学した年でした。清原が入学していなかったとしたら、彼は4番を打っていたほどの実力だったと思います。その後、残念ながらプロ野球の世界には進めなかったようですが、甲子園優勝まで達成すれば十分に立派な成果を得たといえるでしょう。

 

目標が大きいほど「無理だ」と言う人は増えます。「無茶だ」と笑う人も増えます。それは言い換えれば、目標の大きさやすばらしさが認められた証です。大勢の人に笑われるような目標こそ、人生を懸けるくらいの価値がある目標です。そのことを、私は彼の挑戦を通じて学んだのです。

 

 

安積 中

あづみハッピー歯科医院院長

 

 

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※本連載は、安積中氏の著書『人生を切り開く笑いのチカラ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

人生を切り開く笑いのチカラ

人生を切り開く笑いのチカラ

安積 中

幻冬舎メディアコンサルティング

人生における失敗や挫折を「笑い」に転換するための思考法とは? 日本人の4人に1人は何かしらの不満を抱えています。 老後の未来には年金不安と健康不安が待ち受けており、それに加えて、昨今ではコロナ禍での鬱々とした…

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