健康寿命は「高齢者が自立を失う年齢の平均」ではない
また、全世代に回答を求めている(若い世代の回答も含まれている)わけですから、高齢者が自分の健康な期間を知るために参照するにはそもそも相応しくないと言ってもいいでしょう。
一般には、健康寿命を「要介護にならずに、自立生活が可能な期間」といった捉え方をしている人が多いと思いますが、このような捉え方とは無関係な数字なのです。さらに言えば、「平均寿命」をこのような広告に用いるのはまったく適切ではありません。
平均寿命というのは、「ゼロ歳の子が平均的に何歳まで生きそうか」という数値であって、もう何十年も生きている人には何の関係もないからです。自分の年齢だと平均的にあと何年生きるかは、毎年発表される「簡易生命表」から知ることができます。
たとえば、2020年時点で、65歳の男性の平均余命は19.8年ですから、平均的に85歳まで寿命があるということです。女性では同じく24.6年なので、90歳近くになります。
悪気はないのでしょうが、あのような広告は、高齢者には何の関係もない「平均寿命」を用いていること、また、調査方法によってかなり短く出てしまう「健康寿命」をまるで「高齢者が自立を失う年齢の平均」であるかのように使っているという二点で、ひどいミスリードと言わざるを得ません。
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川口 雅裕
NPO法人「老いの工学研究所」理事長。 1964年生。京都大学教育学部卒。 株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で、組織人事および広報を担当。 退社後、組織人事コンサルタントを経て、2010年より高齢社会に関する研究活動を開始。約一万六千人に上る会員を持つ「老いの工学研究所」でアンケート調査や、インタビューなどのフィールドワークを実施。高齢期の暮らしに関する講演やセミナー講師のほか、様々なメディアで連載・寄稿を行っている。 著書に、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「実践!看護フレームワーク思考 BASIC20」(メディカ出版)、「顧客満足はなぜ実現しないのか」(JDC出版)、「なりたい老人になろう~65歳からの楽しい年のとり方」(Kindle版)がある。