「図解」を使うと仕事がうまく回る
私は団体交渉で会社側の末席に座り、交渉のやり取りを筆記するのも役割でした。
それぞれの組合の要求を受けて、会社として再回答するときは、関係者が集まって議論します。いろいろと意見が噴出して、なかなか結論が出ません。みんな沈黙してしまって、天井を見上げて、思案投首(しあんなげくび)の体です。
この状態を打開するため、私は図解を用いて回答案を提案してみました(図1)。
A組合の要求、B組合の要求、会社提示の受け入れ許容範囲の三つの囲みを描いて、重ね合わせるとその一部分が重なります。この重なった部分は無条件で受け入れてよい部分です。
それに加え、両労組が共通して要求している部分、さらにプラスアルファとして、A組合の要求の一部分、B組合の要求の一部分を受け入れてはどうかと図を示し、その下に要求を文字で書き入れて提案しました。
この図を見た経営側の交渉担当者たちは納得し、私の提案はとおりました。
「君、なんでもっと早くこの図を出さなかったのか」と上司にいわれたものです。私はこのとき、図解の威力を知りました。もし、これを口頭でいったり、文章に書いて提出したりしていたら、意図がよく伝わらず、受け入れてもらえなかったでしょう。
以来、図解を適宜使うことで、仕事がうまく回るようになりました。その成果が『図解の技術』となって結実し、次なる転身につながっていきました。
久恒 啓一
多摩大学名誉教授・宮城大学名誉教授