野垣クリニック 野垣岳志 院長

医師の道を進むうえで、先人の教えは深く心に留めておくべきものである。それがときに活動の糧となり、指標となることもあるはずだ。『野垣クリニック』の院長である野垣岳志氏も、若き日の師との出会いにより、理想とする医師像が明確化していったという。かつて師に送られた言葉や、医師として目指すべき方向性について語ってもらった。

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残業時間が月に200時間を超えることも…

実家のあとを継いで肛門科医になるまでは、一般消化器外科医として働いていましたが、研修医時代から多くの素晴らしい医師に師事することができました。現在の若い医師たちにとっては我々が教わってきたことは窮屈なやり方だと思います。

 

当時は完全な徒弟制度であり、いわゆる体育会系のノリそのものでしたから、仕事が第一で、個人の自由はほとんどありませんでした。家に帰れない日々もあり、夜間の呼び出し、早朝5時過ぎからの病棟業務など病院に拘束されている時間は想像を絶する長さでした。

 

一般的に過労死やうつ病発症の危険因子とされる1ヶ月の残業時間は100時間とされていますが、そもそも毎日8時間くらい残業で、休日も必ず病院に顔を出していましたから、あの頃の残業時間は月に200時間はゆうに越えていました。身体的には疲れる時もありましたが、それを上回る充実感と達成感があったため乗り越えることができ、その大変な日々の積み重ねで色々なことを学びました。

 

医師とはどんな仕事なのか、そして外科医という職業の持つ重み、患者さんへの接し方、もちろん手術手技や治療方法なども。外科医師として働いた10年間で今の私の基礎が全て作られています。

「外科医は患者さんに最後まで付き添うことができる」

外科という職業は他の科と大きく違う特色があります。それはもちろん「手術をする」ということなのですが、患者さんの体に直接自分の手を加えて治療をしていくわけです。

 

例えば飲み薬での治療を行うとしたら同じ薬を同じ量で処方すれば、その処方した医師が誰であれ、患者さんに与える影響は必ず同じです。しかし外科は違います。その患者を治療する権利と責任を全て術者が握っているわけです。熟練の医師が行えば短時間かつ安全に遂行できる手術でも、未熟な医師が行えば手術時間も長くなり、それだけでも患者さんに不利益を与えてしまうことになります。

 

自分がやったほうが確実に上手くいくだろうと思われる手技でも若手の医師を育てていかなければ、未来の医療が成り立たなくなってしまうため、徒弟制を組んで、上級医が指導しながら手術を進めていくわけです。

 

師匠に「外科医は患者さんに最初から最後まで付き添うことができる仕事なんだ」と教わりました。悪性疾患を治療していく段階において、まず症状から病気を発見し、検査によって確定診断をする。そして治療可能と判断したら手術を行い、手術療法だけでは再発が懸念される場合には抗がん剤治療を行う。もしくは手術困難で最初から抗がん剤治療を行う。

 

人間はいつかは亡くなる時がくるわけですが、その最後の瞬間まで一貫して外科医が行うわけです。不快な症状を和らげて余生を安らかに過ごせるように務めていきます。状態がいよいよ悪化してきて最後の時が近づいていた患者さんでも、私の師匠が回診にいくとその方は笑顔で出迎えてくれました。何人もの患者さんが「先生に会えて良かった。先生に治療してもらえて良かった」と心の底から喜んでいたのを今だに鮮明に覚えています。こういう医師になりたい。そう思いました。

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