下半身の問題は非常にデリケートであり、周辺を扱う医師も、患者に対する言葉には気を遣う必要がある。すると、会話のなかに独特の言い回しや表現が生まれ、時にクスッと笑みがこぼれたり、深く頷かされたりすることもあるという。『野垣クリニック』の院長である野垣岳志氏に、これまで患者から受けた心に残る言葉を、エピソードとともに紹介してもらった。

トイレに行くと最低1時間は…

「1日ってこんなに長かったんですね」

 

これは、慢性裂肛(いわゆる切れ痔のひどいもの)によって悩んでいた患者さんの言葉です。

 

受診された時には長年の切れ痔のせいで鉛筆ぐらいのサイズの肛門になっており、痛みも強かったため診察も困難な状況でした。毎日排便はあるのですが肛門が狭いため少しずつしか排出することができない状態。無理をして力むと切れて痛くなって出血する。1日で何回も何回もトイレに行かないといけないし、一度トイレに行くと最低1時間ぐらいは座っていないといけない。でも毎日出ているから便秘ではないと思って下剤などは飲んでいなかったそうです。

1日にトイレで過ごす時間は5時間以上!

1日にトイレで過ごす時間は5時間以上になっていました。当然そんな状態では普通の仕事をすることはできませんが、建築設計関係のお仕事であったため在宅でなんとか業務をこなしていたそうです(現在ならリモートワーク推奨なので時代の先取りだったのかも)。切れ痔が悪化して毎回出血するようになったため来院されました。

 

痛みが強くて診察も困難な場合にはまずは薬剤を用いて保存的に治療を試みます。硬い便が出てしまうとさらに切れ痔が悪化するため緩下剤(便を柔らかくする薬)、裂肛を治すための注入軟膏と筋肉の収縮を和らげてくれる効果のある漢方薬を処方しました。2週間使用した状態で再診を行ったら、初診時よりはかなり改善しており、肛門の中の状態を診察することができるようになりました。

肛門を拡張する手術を

患者さんの排便時の痛みや出血はかなり改善していましたが、やはりトイレの回数は多く、まだ長時間かかるとのことでした。もう少し薬剤による保存的治療を続けることもできましたが、なんとかなるなら手術して治したいとご希望されたため、肛門を拡張する手術を行いました。

 

通常サイズの肛門になったことにより排便の回数も1日2回程度となり、1回のトイレ時間も5分以下になりました。患者さんにとっては急に5時間くらいの自由時間ができたということになります。「1日ってこんなに長かったんですね」の言葉も頷けるところでしょう。

 

患っていた期間が5年とすると実に5時間×365日×5年間。「今まで失ってしまった時間を今から取り戻していきます」とのことでした。

 

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