過剰サービスの削減で、労働生産性の向上を目指せ
土曜日配達の廃止等で、郵便局の配達員の労働量は大きく減るはずです。それで利用者に不都合が生じないなら、素晴らしいことです。多少の不都合が生じたとしても、労働力の削減量と比較して無視できる程度なら、やはり素晴らしいことだといえるでしょう。
労働時間が短くなっても、実質的に以前と同様のサービスが提供できているなら、それは労働生産性の向上といえるわけですね。日本は労働生産性が低いといわれ続けていますが、それが部分的にでも改善したなら、とてもいいことです。
今回の変更は「過剰サービスを減らして、労働生産性を向上させよう」というものでした。廃止しても影響が小さいならば、それは過剰サービスと呼べるからです。
その意味では、郵便局以外にも、日本経済には過剰サービスによって労働生産性が引き下げられているところが多数あるので、そうしたところが郵便局を見習い、過剰サービスを減らしていってくれればと、筆者は考えています。
たとえば宅配便は、翌日届いたり、時間帯の指定ができたりするわけですが、それができないと非常に困る、という客はそこまで多くないはずです。だとすれば「過剰サービス」だと考えて中止し、どうしても急ぐ場合や、時間帯を指定したい場合は追加料金を払う…ということにすればいいでしょう。
郵便局は事実上の独占企業だから「サービスの切り下げ」ができたけれども、宅配便業界は過当競争体質なので、サービスを切り下げたらライバルに客をとられてしまう、と考える経営者も多いでしょう。
しかし、ライバルも労働力不足で苦しいのであれば、横並びで過剰サービスを廃止してくるかもしれません。あるいは「ゆっくり便」といった新商品を出してみてはいかがでしょうか。翌日には届かないし、時間指定もできないけれど、料金が安い、という商品ですね。
「少数者向けサービス」の対価を負担すべきは…
「土曜日に配達して欲しい人がいるなら、土曜日配達をやめるな」というのは、正論なのかもしれませんが、それにより多大なコストが発生します。土曜日配達の必要のない大量の郵便物まで、土曜日に配達されるわけですから。
そして、そのコストは利用者全員が負担するわけです。それくらいなら、急ぐ人だけが速達料金を払えばいいでしょう。それにより、上記のように値上げが不要になるのであれば、多くの人にとってメリットでしょうから。
この話を少し広げて考えると、「少数者のために全員がコストを負担すべきか」という問題にいきつきます。たとえば、離島の住人は、毎日郵便を受け取る必要性が高いでしょうか。配達が2日に1回になることで、困り果てる人がいるでしょうか。
少しは困る人がいると思いますが、そうした人には速達料金を払ってもらえばいいと思います。それにより、郵便局のコストが大幅に低下し、次の値上げが不要になるかもしれないからです。
もし「離島の人が可哀想だから、ちゃんと毎日配達しろ」というのであれば、「離島の人が可哀想だから、ちゃんと毎日配達しろ。そのためにコストがかかるなら、我々全員で分担して払うから。次の値上げは覚悟しておく」といわなければならないわけですね。
そうした覚悟が多くの人に共有されるのか否かが、離島への毎日配達を続けるか否かを考える際の重要な論点となるわけです。
今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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