受験生はどう考えて、答えたか
本論に戻ろう。本問に接し受験生はどう考えたのか。結果は実にバラエテイーに富んだ解答が出揃った。テストを受けた受験生はon the wayという表現を様々に解釈したのである。
実際に提出された幾人かの解答とコメントを見てみよう。
受験生A
「僕は、訳としては、子供は2人います。そしてそのうちの1人は未熟者ですという意味だと思います。on the wayは途上というような意味だと思いますので、未熟者という風に捉えました」
受験生B
「子供は2人です。1人はもうすぐ帰って来ます、という意味ですね。Be on the wayには、帰りなさいという意味があることを、何かの英文で目にしたことがあります。」
受験生C
「子供は2人います。もう1人はお腹の中にいます、という意味になります。onの前に
be動詞が 省略されていますが、be on the wayは〜の途上という意味だと思うので、1人は奥さんのお腹の中にいるのだと思います。生まれる途上ということですね」
受験生D
「子供は2人います。もう1人いますが、その子は独立しています、という訳になります。on the wayの意味をひとり立ちしていると考えました」
受験生E
「子供は2人おります。そのうちの1人が農場を継ぐ予定です、という解釈になります。英文の後半に、現在、3歳半の息子が将来、農場を継承するかもしれないとの記述があり、ここがポイントではないでしょうか」
姿なきもう1人の子供に対する、帰国子女の解答
今回、この小テストを私は身近にいる受験生数十名に試みた。彼らの解答に触れ感じたのは、推理力と一口に言つてもさまざまだなということである。これは意外であったが、解答の方向性として、1番多かったのは受験生Eと同種の解答なのである。
「子供は2人いて、内訳は息子と娘です。このファームは息子があとを取ります」「2人子供がいて、そのうち息子が農場を継ごうとしています」「子供は息子と娘で、そのうち息子のほうが農場経営を目指しています」などの答案が目についたのだ。その数は全体の3割を超えており1番多い。
これらの解答は英文に記述されている息子の情報を活用し推理している点は良い傾向だが、方向性が少々違う。息子は3歳半だから、農場経営に関して途上というには先の長い話だ。残念なのは、正解である、受験生Cと近似した解答が約2割と少ないことだった。
予想を覆して、「子供は2人います。そして1人は妻が妊娠中です」「子供は2人ですが、1人はもうすぐ生まれるところです」という類の解答は多くは見られなかったのだ。解答としては、妊娠中というより、もうすぐ生まれるところですという訳がやや良い評価となろう。
下線部(B)の正解者の中には帰国子女が数名含まれていた。やはり日常会話に長けているのか。
農夫のイライラ感を読み取れるか
他の下線部の解説も簡単にしておこう。下線部(A)の意味を解くにはその前に記述されている農夫の反応がカギとなる。女性の「農場を売ればいいじゃない」という投げやりな言葉に、「えー、売れだって、あんたは農場を売ろうとしたことがあるのかい」と農夫が応答しているからだ。
下線部(A)のitは農場であり、概略、「農場にこれまでにつぎ込んだお金は戻って来ないんだよ」との意味となろう。一方、下線部(E)もその前に描写されている記述を咀嚼しないと意味がつかめない。数行前からの2人のやり取りからわかることは、①妻が街よりも農場(田舎)を好んでいること、又、妻は②料理、お菓子作り、裁縫、家畜の搾乳、更に馬に蹄鉄を履かせることもできるなど、働き者であり、その献身ぶりが良く分かるということだ。
妻をこう評した農夫の言葉を受けて、女性は農夫に妻を誇りに思うべきだ、あなたの妻は素晴らしい女性だと述べている。農夫にしてみれば余計なお世話である。日頃から、妻に感謝の気持ちを抱き、良き夫であると自負する農夫は、態度が硬化し、「そこまで奥方の肩を持つ必要はないよ」となる。無理もない反応だ。
下線部(E)の前後に「私は良き夫なんだ」という文章が繰り返し出てくるが、ここから下線部(E)の意味を推理すると「これだけは、はっきりさせておきたいが」とか「今までのやりとりを整理しておくと」とか「事実そうなんですが」というような意味と捉えるのが相応しいだろう。
下線部(E)は通常の表現としてはLet me get that straightという慣用句と思われ、この場合のstraightは、まっすぐなとか直線的なという意味ではない。むしろ、正しく、論理的な、整理された、という意味に近いのである。
農場経営に疲れを感じ始め、街への憧憬を募らせる農夫と、街よりも農場を愛する妻、まだ3歳半の息子は20年先のことは分からないが、農夫は息子が大学卒業後、農場を離れてもいいのではないかと考えている。
だが、農場が好きな妻の影響から、農場を継承することもありうる、とも。農夫は日々家事と酪農に従事してくれている妻に感謝の気持ちを感じているが、街から来た女性の忌憚のない発言に、自分の気持ちを誤解していると感じているのである。人生経験が18年程度の受験生には、家の継承とか人間同士の深い関係性など、なかなか解き明かすのは難しいかもしれない。
又、大きな構図として、①都会と田舎、②都会にあこがれる農夫と自然を愛する妻、③妻との生活に感謝を抱く農夫とそのように感じていない街からの来訪者という対立図を瞬時に読み取るのも難儀かもしれない。ちなみに、小テストの4番で、前者に(妻)、後者に(誤解)とうめるのに、受験生の多くはどうも苦労したようである。
小林 公夫
作家 医事法学者
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