医学部入試や東大入試の問題をパラパラ見ていると、「この問題、面白い!」と魅きつけられる良問に出くわすことがある。それは最小限の知識を前提に、受験生に本質的な論理的思考力がどう備わっているかを試そうとする問題だ。いわば、地頭の良さが問われる問題ともいえる。そこでこれまで見てきた医学部入試や東大入試の中から、興味深い入試問題をこの連載では順次紹介していくこととする。
医学部や東京大学の入試問題は面白い。知的好奇心がくすぐられ、腕に覚えのある受験生でも答えに窮する「風変わりな問題」も多い。連載の第1回は東京大学の入試生物で出題された「ゾウリムシ」を取り上げる。なかなか手ごわいが、読者の皆さんもチャレンジしてほしい。
東京大学の入試で問われる論理的思考力―推理力―
「ドラゴン桜」第2シリーズがTBSの日曜劇場枠で放送され、大好評のうちに終了した。ドラマでは、東京大学に合格するための思考方法や東京大学が受験生に問うている論理的思考力などが具体的に解説され興味深い内容であった。
だが、視聴者に分かり易い内容を意識して構成されているためか、文系的要素、つまり英語や社会の入試問題に特化した素材や記述力に関する内容が多い印象だった。しかし、過去の東京大学の入試問題を精査すると、理系の問題の中にも論理的思考力を問う面白い問題が散見される。
本問は少々古い問題だが、今回はこの問題を取り上げる。内容は一部略して改変してある。
【問】ゾウリムシに関する以下の問に答えよ。各問の下に記したア、イ、ウ…の中から最も適したものを一つ選びなさい。
実際に出題された問題は、上に示した問題の(2)のほかに、
図1に示されたゾウリムシの拡大率はおよそ何倍か、図1のYに示されている部分の働きは、高等動物のどの器官の働きに最も近いかなど、すべて選択式で5問構成であった。
ゾウリムシの大きさは約0.2mmだから、図が10cmくらいの大きさに見えているとしたら拡大率はおよそ500倍、Yは収縮胞で浸透圧の調節をするのでヒトの腎臓に近いなどごくごく基本的な出題だが、その中で私が注目したのは上記の(2)の出題である。これは推理力を問う問題で、なかなか面白い。
上記の問題文に示されているように、
「図1のXにおけるゾウリムシの断面図の輪郭はどれか」
というのが出題の本質で、図を見ながら少し考えれば正答は推測しうるが、小学校入試でよく出題される、「大根を切断した時の断面図はどれか」に答えるようなわけにはいかない。大根の立体構造は誰もが認識しているが、ゾウリムシが立体的にはどういう形状なのかを知る人は少なく、答えに到達するのは難しいからだ。
作家 医事法学者
東京都出身。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了、一橋大学博士(法学)、専門は刑法、医事法、生命倫理、法哲学。獨協医科大学医学部医学科医事法制担当教員。主著に「治療行為の正当化原理」(日本評論社)、大塚仁博士,古田佑紀元最高裁判事らとの共著「大コンメンタール刑法第3版第2巻」(青林書院)などがある。RADIOBERRYで医学の話題などを発信しており、ハカセ公夫はDJ名。医学部専門予備校クエスト、医学部受験予備校インテグラ、家庭教師のトライで講師を務めている。また、医学部受験情報を発信するFM栃木RADIOBERRY「ハカセ公夫の受験ホットほっとライン」で、DJも務める。主著にシリーズ累計25万部を超える『「勉強しろ」と言わずに子どもを勉強させる法』「オトバンク FeBe版 勉強しろと言わずに子供を勉強させる法」(以上、PHP研究所)など。長く医学部受験を指導しており、『医学部の面接』『医学部の実戦小論文』(以上、教学社)は医学部受験生のバイブルである。なお、東大受験漫画『ドラゴン桜』9巻にも登場している。活動状況は、「小林公夫オフィシャルサイト」、「小林公夫Twitter」、「小林公夫の愛でたいモノたち」をご覧ください。著者撮影/佐々木健
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連載「医学部」「東大」入試で求められる論理的思考力