(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年9月7日に公開したレポートを転載したものです。

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1―先月までの動き

社会保障教育モデル授業等に関する検討会は、年金制度を含むモデル授業の内容や授業後のアンケートについて案を確定し、実際の高校で検証を行って改善を図ることとした。
 
○社会保障教育モデル授業等に関する検討会
8月3日(第3回)高校で検証する社会保障教育モデル授業案、年金広報検討会の検討状況等
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20296.html(資料)

2―ポイント解説:繰下げ受給と死亡の難しい関係

2022年4月の改正法施行に向けて、政省令に関するパブリックコメントの結果と決定した政省令が8月6日に公表された。本稿では、パブリックコメントで取り上げられた繰下げ受給と死亡の関係について確認する。

 

1.繰下げ待機中に本人が死亡した場合:5年以上前の分は時効で不支給


繰下げ受給とは、65歳から受け取れる年金を受け取らずに受給開始を延期して、66歳以降の自分が決めた時点から受け取り始める仕組みである。延期する(繰り下げる)月数が多いほど年金額が増額され、現在の上限である70歳まで5年間(60か月)繰り下げると65歳から受け取り始める場合の1.42倍になる。2022年4月からは75歳まで繰り下げ可能になり、最大で1.84倍になる[図表1]。

 

[図表1]繰下げ受給の改正イメージ(2022/4)
[図表1]繰下げ受給の改正イメージ(2022/4)

 

年金を繰り下げた後、増額された年金を受け取る代わりに、65歳から受給申込時点までの年金額を一括で受給することもできる。しかし、月々の年金は5年で時効を迎えるため、受給開始の申込が70歳を超えると、65歳から申込の5年前までの分は受け取れない。そこで、安心して70歳以上の繰下げを選択できるよう、2022年4月からは請求の5年前に繰下げ受給の申出があったとみなして年金が増額され、時効による消滅が発生しない形へと変更される[図表2]。

※ 社会保障審議会年金部会(2019/10/18)での、資料1p.8に関する厚生労働省の説明による。

しかし、この「みなし増額」は、受給開始を繰り下げている最中(待機中)に本人が死亡した場合には適用されない。受給開始を申し込まないまま亡くなった場合、遺族は死亡時までに受けとれるはずだった年金(未支給年金)を請求できるが、時効で消滅した分は受け取れない[図表3]。この点を確認したパブリックコメントには、みなし増額は本人が繰下げ申出(繰下げ後に受給を開始する手続き)を行った場合だけに適用される旨が返答された。

[図表2]例:72歳に受給開始の場合 [図表3]例:繰下げ待機中に本人が72歳で亡くなった場合
[図表2]例:72歳に受給開始の場合
[図表3]例:繰下げ待機中に本人が72歳で亡くなった場合


みなし増額は、時効による消滅を回避でき、年金額も増額となるため、現在と比べて受給者に有利となる。しかし、不慮の死亡の可能性まで考えると、安心して繰下げを選択できる状況にはなっていない※1。そもそも年金制度は、いつ死亡するかが分からないことを前提とした制度である。繰下げ受給が本格化する可能性がある2025年度までに※2、65歳到達前に行う繰下げ受給の意思確認を単なる受給し忘れと繰下げの待機を区分する手段として再整理するなど、安心して繰り下げできる環境整備を検討してはどうだろうか※3
※1 繰下げ待機中の死亡を、年金を受給せずに生活できるだけの経済的余裕があった、と見ることも出来るが、受給しなかった分だけ自己資金が減少して遺産が減少していることも考慮すべきだろう。
2025年度からは厚生年金(2階部分)の支給開始年齢が65歳になるため(年金部会(2019/10/18) 資料1 p.14)
※3 なお、社会保障審議会年金部会(2019/10/18)での議論では、経済的理由などで繰下げを選べなかった人との公平性の点から、みなし増額への反対や疑問の声があがっていた。この点は、基礎年金の低下抑制と総合的に検討してはどうだろうか。

 

2.繰下げ待機中に配偶者が死亡した場合:遺族年金の受給権が発生すると金額が0円でも以降は繰下げ不能


また、繰下げ受給による割増は、遺族年金や障害年金の受給権があると、その受給権の発生日以降は対象とならない。その際に注意が必要なのは、実際に受け取れる遺族年金が0円の場合でも繰下げできない点である。

※ ただし、障害基礎年金の受給権がある場合に老齢厚生年金を繰り下げることは可能。


遺族厚生年金の金額は、本人の加入履歴に基づく老齢厚生年金の金額と配偶者の死亡に伴う遺族厚生年金相当額との差額となっている。そのため、亡くなった配偶者の老齢厚生年金が遺された本人の老齢厚生年金よりも少ないなどの理由で差額がマイナスとなる場合は、遺族厚生年金は支給されない。しかし、この場合でも遺族厚生年金の受給権は発生しているため、遺された本人の老齢年金は、受給権の発生日以降は繰下げによる割増の対象外となる。

※ この遺族厚生年金相当額は、(1)亡くなった配偶者の老齢厚生年金額の3/4と、(2)亡くなった配偶者の老齢厚生年金額の1/2と遺された本人の老齢厚生年金額の1/2の合計、のいずれか多い額を指す。


この点を確認したパブリックコメントには、この内容は今回の改正に関するものではないが今後の参考とする旨が返答された。遺族厚生年金が0円の場合だけでなく少額の場合も考慮して、繰下げ受給と遺族厚生年金の受給を選択可能にするなど、今後の検討に期待したい。 
 

 

中嶋 邦夫

ニッセイ基礎研究所

 

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