【ケース1】自分のペースで楽しめる
総合病院に勤務する50代半ばの心臓血管外科医A氏がロードバイクに乗り始めたのは40歳の時。運動不足解消と健康維持を図るのがきっかけでした。仕事柄不規則な生活続きで運動不足を気にかけていたA氏は30代後半からゴルフを始めます。
「しかし、決まってゴルフの前日に緊急手術で呼び出されるのです。一緒に回る予定のメンバーにも迷惑がかかる。そんなことが数回続いて、ゴルフは潔く諦めました。その点、ロードバイクは日時に縛られず、自分のペースで楽しめるので、好都合だと思ったのです」。A氏はロードバイクとの出合いをそう振り返ります。
ロードバイクは理想的な有酸素運動と言われています。「心臓リハビリの理論から見ても理に適っています。運動療法的な側面もあるし、心肺機能を向上させる効果もあります」とA氏は専門的な立場から、ロードバイクの利点を説きます。まさに、循環器系の医療従事者ならではのアプローチでしょう。
走行中に思い付いた画期的な術式
よく知られるように、有酸素運動は軽~中程度の負荷を継続的にかけ、酸素を使って体内の脂肪を燃焼させる運動です。その効果は脂肪燃焼ばかりでなく、脳内活性化にも役立つと考えられています。
古来、良い考えは「三上」で生まれるとされています。もともとは古代中国の考え方で、三上とは「馬上、枕上、厠上」を指します。移動中、就寝中、用足し中など、リラックスしたときに妙案が浮かぶという例えです。現代風に訳せば「クルマ、ベッド、トイレ」といえるでしょう。クルマ=乗り物=ロードバイクとみなせば、ロードバイクもよい考えを生む一種の環境に違いありません。
「忘れもしない、10年前のゴールデンウイーク中、ペダルをこいでいた時に以前から考えていて、どうしてもまとまらなかった画期的な術式を思い付いたのです。気分が爽快になった時のふとしたひらめきです。帰ってからただちに実証試験に取りかかり、新たな術式として完成させました」。有酸素運動による脳内活性化がもたらした効果でしょう。
経験者のアドバイスに耳を傾けよ
「こんなにスピードが出るんだ、というのが初めてペダルをこいだ時の感想です」。A氏を驚かせたのは軽々と時速40キロに達するロードバイクの性能でした。運転席の周りが覆われている車と、風を切りながら走るロードバイクとでは同じ時速40キロでも体感が違います。
前述の車種区分で定められているように、ロードバイクは舗装路を高速で走ることに狙いを定めています。参考までに、同区分ではマウンテンバイクは「荒野、山岳地帯等での乗用に対応した構造のもの」、クロスバイクは「マウンテンバイクとロードレーサーを組み合わせ、一般道路での走行に適するようにしたもの」としています。
初めてペダルをこいだ時のA氏の感想はそのまま、初心者へのアドバイスになります。「スピードが出るということは転倒事故を起こしやすいということです。ですから、危険な街中では乗らないほうが賢明。できるだけ、河川敷などの専用コースか自然に恵まれた郊外を走るようにするべきです。最初にどんな自転車を買うべきか、どのようにパーツを組み合わせるかも含めて、まずは経験者の助言に耳を傾けることが大切です」
面白さが分かると道具に凝るのはどんな趣味も同じ。A氏も一時はロードバイク3台、マウンテンバイク2台を保有していました。ロードバイクは通勤用、トレーニング用、競技大会用と乗り分け、国内のヒルクライムレースにも積極的に参加しています。