(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍でうつ病になってしまった41歳・会社員のAさん。初めに受診した精神科で思うような治療の効果が得られず、セカンドオピニオンを探して、医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏のもとへやってきました。「Aさんのうつ」の根本的な原因として考えられることを、同氏が詳しく解説します。

41歳会社員の「ストレスのもと」はこんなにも…

ボトルネックとして考えられる1つ目は、「睡眠の問題」です。

 

Aさんは、寝る時間が深夜3時頃ととても遅く、問診表にはほぼ毎日、アルコールを飲んでいることも書かれています。本人に聞くと、布団に入ると「職場に申し訳ない」という思いが頭をよぎり、なかなか寝つけないそうで、その分昼近くまで寝ているので、睡眠時間は確保できていると言っています。

 

念のため、若い頃からの睡眠習慣についても尋ねてみると、もともとロングスリーパーであり、学生時代以前は、最低でも8時間以上睡眠をとっていましたが、就職してからは忙しさから5~6時間程度の睡眠しかとれていなかったようです。

 

若い頃や体調が良いときはこれでもなんとかなっていたのでしょうが、環境が変わったり激務を強いられるようになると睡眠不足がボディーブローのように心身をむしばんでいた可能性があります。療養生活に入ってからも、習慣化しているアルコール摂取が睡眠の質を落としており、これが回復を妨げる要因になっているとも考えられます。

 

ボトルネックとして考えられる可能性の2つ目は、「経済的な問題」です。何ヵ月も仕事を休めば、収入が途絶え、貯蓄を削っていくことになります。生活の基盤となる経済面で不安がある状況では、安心して療養に専念することができなくなります。

 

ただ、Aさんのように病気療養のために仕事を休んでいる会社員であれば、健康保険から「傷病手当金」として、休むまでに受け取っていた給与の6割程度の額が、最長1年6ヵ月にわたって支払われます。

 

本来は勤務先の労務・人事がこうした情報提供をして、手当金の申請を促すものなのですが、こうしたことを怠る企業は意外と多いようで、制度について何も知らないという人が少なくありません。こうした場合は医師が情報提供し、不安をつぶしていくのも重要です。

 

3つ目は、「家庭環境」が挙げられます。Aさんには幼い子どもが二人います。長男は小学1年生、長女は幼稚園に通っているということなので、二人とも平日は午後の早い時間、おそらくAさんがようやく起きだした頃に帰宅すると考えられます。

 

また、幼い兄妹は些細なことでけんかして家の中が大騒ぎになるので、それが連日となるとメンタルが弱っている患者にとっては相当なストレスで、イライラを募らせることになります。また、Aさんは仕事はもちろん、家事もほとんどしていない状態ですから、妻からは「子どもの遊び相手ぐらいしてやって」と求められ、身の置きどころがなくなっている可能性もあります。

 

うつ病は落ち着いた環境で療養する必要がありますが、仕事を休むだけで良い療養環境が手に入るわけではありません。子どもなど家族の存在が療養を妨げているケースもあるため、状況が許すのであれば、しばらく実家に滞在する、あるいは週に何回か実家に泊まるなど子どもと離れて暮らすという選択肢も検討する必要があります。

次ページ「順風満帆」タイプにこそ見られるストレスのかたち

※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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