(※画像はイメージです/PIXTA)

MSCI先進国株指数は9月28日、約11ヵ月ぶりに100日移動平均線を下回った。前回この指数が100日移動平均線を割ったのは米大統領選挙直前のことだったが、当時と比較して今回のVIX指数は比較的穏やかに推移している。直近の世界株安のきっかけは、特定のイベントを嫌気した突発的な「リスク・オフ」ではなく、「ファンダメンタルズの悪化」に起因する可能性が高い。

約11ヵ月ぶりに100日移動平均線を割った先進国株指数

MSCI先進国株指数(米ドル建て)は、9月28日に100日移動平均線をおよそ11ヵ月ぶりに下回り、10月1日現在もその移動平均線を下回った状態だ(図表1)。

 

日次、配当込み、米ドル建て、2019年12月31日=100で指数化 期間:2019年12月31日~2021年10月1日 MSCI先進国株指数:MSCI World Net Total Return(USD) 出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成
[図表1]MSCI先進国株指数の推移 日次、配当込み、米ドル建て、2019年12月31日=100で指数化
期間:2019年12月31日~2021年10月1日
MSCI先進国株指数:MSCI World Net Total Return(USD)
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成

 

MSCI先進国株指数が前回100日移動平均線を下回ったのは2020年10月28日~11月2日であり、まさに11月3日の米大統領選挙を控えて相場の先行きに不透明感が高まった時期だった。しかし、VIX指数で見ると今回は当時の状況とは明らかに異なる。

 

別名「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数(終値)は、2020年10月28日に40.28をつけており、マーケットの緊張感がかなり高まっていたことが確認できる。しかし、今年9月28日のVIX指数(終値)は前日の18.76から23.25まで上昇したとはいえ、米大統領選挙前の水準と比較すればかなり穏やかだったと言える(図表2)。

 

日次、期間:2019年12月31日~2021年10月1日 VIX指数:CBOE(S&P500)Volatility Index 出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成
[図表2]VIX指数の推移 日次、期間:2019年12月31日~2021年10月1日
VIX指数:CBOE(S&P500)Volatility Index
出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成

 

ここから推察されることは、今回引き起こされた世界株安のきっかけが、特定のイベントを嫌気した突発的な「リスク・オフ」によるものではなく、2つの懸念材料によって積み上げられた「ファンダメンタルズの悪化」に起因する可能性が高いということだ。

①中国の景気減速と②グローバルなインフレの高止まりが懸念材料に

その2つの懸念材料とは、①中国の景気減速懸念と、②(日本を除く)グローバルなインフレ懸念だ。①に関しては、中国恒大問題や電力不足が中国経済の下振れリスクにつながっている。②に関しては、特にアジアにおける新型コロナ感染拡大に伴う生産停止やサプライチェーンの停滞等がインフレの高止まりを引き起こし、消費者マインドを悪化させている。

 

この2つの懸念材料は企業業績の悪化にも直結する。中国経済が減速すれば、中国の売上比率が高いグローバル企業の業績への影響は避けられない。また、インフレ圧力が高まれば、価格決定力が弱い企業は収益性が低下するリスクにさらされる。さらに、生産停止やサプライチェーンの停滞が長引けば、今年の年末商戦までに在庫を確保できない可能性もある。実際、前述した要因で市場予想を下回る決算を発表し、株価が急落する企業も散見されはじめている。

 

このように世界株を取り巻くファンダメンタルズは、以前ほど良好ではなくなってきている。足元の世界株の下落は、中国の景気減速とグローバルなインフレ圧力に伴う企業決算の下振れリスクを織り込みにいく過程で生じた可能性がある。

 

しかし、だからと言って悲観一色になる必要も無いだろう。現在、新型コロナウイルス感染症の経口治療薬が治験の最終段階に入っている(図表3)。

 

出所:各種資料よりピクテ投信投資顧問作成
[図表3]新型コロナウイルス感染症の経口治療薬開発状況 出所:各種資料よりピクテ投信投資顧問作成

 

米メルクのCEOは、米国において同治療薬の緊急使用許可(EUA)が年内に下りる可能性があると明かしており、新型コロナ対策において「ゲーム・チェンジャー」になることが期待される。経済正常化に向けて景気が再加速するシナリオにも注目だ。

 

 

※個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『世界株安を引き起こした2つの懸念材料』を参照)。

 

(2021年10月4日)

 

田中 純平

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【ご注意】
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