※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、事務的雑用の排除がもたらす効果を解説します。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

無駄の排除には「ダメだ」で終わらせないことが肝要

長いだけで結論が出ない会議や、手土産や無駄話などの虚礼。不便なシステムに人間のほうが合わせるという不合理。ただ流行しているから、単に面白そうだからという理由で研究テーマを決め、結局はなんの発見も進展もなく、税金と貴重な時間の無駄使い。

 

こうしたものを排除していく時、大切なのは「ダメだ」と言いっぱなしで終わらせないことです。うまくいかないことがあったら、「なぜダメだったか」を具体的に分析し、「次にどうすればいいのか」を考えることが、最良のリカバリー策です。

 

私の好きな格言に、米国の発明家でGMの研究所長を務めたチャールズ・ケタリングの「A Problem Well-stated is Half-solved」があります。問題を綿密に分析して何が問題か詳細に述べることができたら、問題は半分解けたも同じという意味です。困難でおろおろするより、何が困難であるか分析することが大切です。

 

日本のある大学の睡眠研究プロジェクトに関わっていたことがあります。私は途中までしか関わらなかったので、日本の大学が研究申請をしました。2次審査には進みましたが、競合するある研究機関の方の申請が認められ、結局、予算もそちらにいったという話でした。

 

「ダメでした。鼻の差で負けました。次は頑張ります」

 

結果報告とともに先生たちのこんなコメントを聞いて、私は負けるべくして負けたのだと悟りました。

 

ダメだったなら、なぜダメだったのかを分析しなければ、次につながりません。どこがよくなかったのか、テーマが練られていなかったのか、それともデータや論文に粗(あら)があったのか、具体的に考えなければ意味がないのです。

 

また、審査が得点式かどうかも知らされていないのに「鼻の差」といえる理由がわかりません。競馬の着差なら画像で確認できますし、ウマの体のサイズから「1馬身は約2.4メートル、頭差約40センチ、鼻差約20センチ」と決められています。

 

「これは競馬よりちゃらんぽらんだ」と私は呆れてしまいました。この程度の分析では、どのような策を講じるのかも不明です。「鼻の差で負けた」という発言を聞いた共同研究者は、同じように「次は頑張ります」と唱えましたが、なにをどう頑張るのでしょうか? 訳がわかりません。次回に備えて、鼻を長くしておこうとでも思っているのでしょうか?

 

いっぽう、研究費を勝ち取ったライバルは、アメリカの大学で長く研究をしていた先生が率いる研究機関でした。研究テーマも素晴らしいものでしたが、「予算を獲得しなければ研究グループは潰れ、研究が存続できない」という厳しさをよく知っていたので本気度が違ったのでしょう。それも大きな勝因の一つだったと思います。すなわち、このグループには「次はない」という意識があるのです。

 

何かにチャレンジするとは、新たな課題を常に発見し続けるということでもあります。睡眠医学であれば「眠りの謎を解明する」という大きな課題があり、そこから、たとえば、「新生児、小児の発育段階でのレム睡眠の変化は脳の発達に寄与する」という仮説が生まれ、研究がスタートします。

 

そして課題は、ひらめきから生まれたり、世の中のニーズの発見から生まれたりする他に、「失敗したこと」からも見つかるのです。課題がなければ、新たな創造はありません。その意味で失敗は、とても貴重な経験と言えます。

自分らしく仕事したい人にお勧めの、HPDCAサイクル

ビジネスの世界では、仕事は常に「PDCA(Plan計画、Do実行、Check評価、Action改善)サイクル」を繰り返していくことが大切だとされていますが、研究の世界では計画以前に重要な課題を吟味し、仮説を持つことが不可欠です。

 

結果を材料に課題を発見して常に新たな仮説を持つ。PDCAに「Hypothesis仮説」を加えたHPDCAを回していくやり方は、研究者のみならず、自分らしく仕事をしていきたいビジネスパーソンにはぜひ試していただきたいと思います。無駄を省き、システムよりも人を優先してこのサイクルをスピーディに回していくうちに、よりスピードアップした仕事のペースが我がものとなるでしょう。

 

アメリカの研究の場合は、HPDCAに人とお金のマネジメントが加わってくるので、より真剣に成果を出そうとします。

 

NIHの研究費申請でも、fishing(釣り)は駄目だとよく言われていたのですが、最初は何のことか理解できませんでした。研究費申請を重ねるうちに、はたして釣れるかどうかも、またなにが釣れるかもわからない魚釣りは駄目だということで、仮説がないものは研究とは言えないということだとわかりました。

 

そうして、私が審査に加わった研究費申請の査読でも、仮説は? 目的は? と、先ず問いかけます。明確な仮説がない場合は、もちろん門前払いです。fishingで重大な発見をしてもそれは科学ではないのです。

 

自然科学の分野で、よくセレンディピティ(serendipity)という言葉が使われますが、セレンディピティは、失敗してもそこから見落としをせずに学び取ることができれば成功に結びつくという意味です。また、時には、科学的な大発見をより身近なものとして説明するためのエピソードの一つとして語ることにも使われますが、どちらもfishingとは全く異なります。皆さん、未だにfishingをしていないかどうか自問してください。

 

 

西野 精治

スタンフォード大学 医学部精神科教授・医学博士・医師

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長

日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員

日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

西野 精治

文藝春秋

スタンフォード大学で学んだ著者が説く、仕事術! 著者がアメリカトップの大学の一つであるスタンフォードの門を叩いたのは1987年のこと。それから多くの蒙を啓かれること30年余、真の成果主義や個人主義について学びました…

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