(※写真はイメージです/PIXTA)

毎月月初のレセプトチェックは、地味な事務作業ですが、クリニック経営を支える重要な業務です。精度の高いレセプト業務を行うために知っておきたいポイントを見ていきましょう。医療機関コンサルの筆者が解説します。

二重請求の原因にも…電子カルテならではの「弱点」

電子カルテにはレセプトチェック機能が搭載されているので、従来は「目視」で行っていた点検を「システム」が肩代わりしてくれるようになりました。昔のように1000件を超えるレセプトをプリントアウトすることもなく、パソコンの画面上で修正できるので、大幅な時間短縮が実現しました。

 

便利な電子カルテではありますが、その「システム」を扱うのは人です。電子カルテの性能は向上していますが、「人が判断して修正する」という最終工程はなくなりません。電子カルテを設定し、「こういうことが起こったら知らせてね」と人が“指示”を出さなければ、せっかくのシステムが機能しません。指示されたことはきちんとこなすけれども、指示されていないことはできないのが「システム」だからです。

 

 

また、電子カルテ自体も万能ではありません。機種によってチェックシステムの精度に差があるので、チェック業務を上手く機能させるためにその“癖”を知っておく必要があります。検査や処方薬と主病名のひも付けは多くの電子カルテが得意とするところですが、例えばエックス線撮影に対する「部位の記載漏れ」はチェックできません。また各種の管理料の算定についても、算定漏れがチェックできない、あるいは二重請求してしまう可能性のある項目も存在します。

 

事例を一つご紹介しましょう。Aクリニックでは、初診料を算定したのち、一定のルールのもとで「3ヵ月経過後にいったん削除し、新たに主病名を追加する」という処理をしています。

 

あるとき、継続加療中の患者が3ヵ月以上空けて再来院したため初診患者として算定したのですが、その処理を忘れてしまいました。電子カルテ上は、初診に対する主病名(旧病名)の記載があるためチェックシステムが適用されなかったのです。

 

幸い審査機関への伝送時にエラーチェックが機能したため、提出前に修正できましたが、これも電子カルテの“癖”といえます。ベテランの医事スタッフであれば臨機応変に対応できると思いますが、スタッフが入退職する際には、引き継ぎ事項の中に加えておくことが望ましいでしょう。

 

レセプトの不正請求がなくならない根本原因

レセプト請求にはドクターの診療行為が正しく反映されることが大前提ですが、保険請求制度の運用上、必ずしも内容が現実に即していないことがあります。例えば薬を処方する場合、病名とひも付けされていなければ保険請求が通らないといったケースです。

 

検査についても同様で、本来の病名ではないにもかかわらず、“請求のために”病名を付ける“保険病名”という処理方法があります。これは不正請求ではありませんが、レセプト上では恣意的な処理をすることになります。ややもすると「鉛筆をなめる」ことで診療報酬を不正に受け取ろうという気持ちになりかねない行為であり、医事スタッフに自制心が求められることを認識しなければなりません。また、制度そのものが原因になっている場合もあります。

 

従来、日本の診療報酬体系の中心を占めていた「出来高払い」制度は、医師が不必要な検査や投薬を行い、薬漬けや過剰診療を招く誘因になっていると指摘されてきました。そこで国が導入したのが疾患ごとに点数が定められている「定額払い(DPC)」制です。

 

しかし、この制度改革が新たな問題を引き起こしました。いち早く定額制となった血液化学検査や人工透析において、医療サービスの質の低下だけでなく、レセプトの不正請求も見られるようになったのです。いくら熱心に診療をしても、受け取れる報酬は変わらないためです。

 

明らかになっていないものも含めてレセプトの不正請求がなくならないのは、基本的に医療制度が性善説に基づいて運用されているからです。

ミスに気付かず「不正請求し続けるケース」も頻発

1990年代後半よりレセプト、カルテ開示等、医療の透明化の動きが出てきたことで、医療機関に対する監視の目は厳しくなってきました。しかし、審査支払機関の目が届かないこともあり、不正請求だけでなく、保険請求ルールの拡大解釈による請求処理が行われるケースもあるようです。

 

それが医事スタッフによる単純ミスであれば、気づいたときに報酬を返還すれば問題ありません。基本的なルールに則っていれば、立入検査が行われることもありませんので、身構える必要はないでしょう。

 

ただし、ひとたび目をつけられたときのダメージは深刻になる可能性があります。レセプト請求の場合、特定の医事スタッフが担当していることが多いため、医事スタッフのスキルがクリニックのレセプトレベルにそのまま反映されるのです。つまり、レセプトに詳しくないスタッフが担当する場合、間違っていることすら気づかぬまま“不正”に報酬をもらい続けてしまっているケースが往々にしてあるということです。

 

それが発覚すると過去5年分のレセプトを遡って審査されるため、仮に1ヵ月10万円の“不正請求”があり、5年(60ヵ月)で600万円を一挙に返金しなければならないとなると、資金繰りにかなりの支障をきたすでしょう。多額の報酬を返還しなければならないだけでなく、悪意のある場合は、詐欺行為として刑事訴追される可能性もあり、保険医療機関の停止、取り消し処分を下されたクリニックとして「官報」に掲載され、社会的信用を失ってしまうリスクもはらんでいます。

 

だからといってそれほど怯える必要はないのですが、下手をすると大ケガをしてしまうかもしれないということは頭の片隅に置いておいていただければと思います。

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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