「残念ながら、日本のスポーツはアメリカの10年後を追いかけていると思うんで、遅かれ早かれ、こうなると思ったんです」
前沢は、北海道日本ハム復帰後の2015年(平成27年)から、毎年メジャーへ視察に出向いていた。
コロナ禍で海外へ行くことが難しくなった2020年(令和2年)を除いて「5年連続、毎年1回か2回は、アメリカに行っていましたね」。
そこで目撃したのは、球場を核としたメジャー球団の「街づくり」だった。
球団が「街づくり」に乗り出すのは必然
ボストン・レッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パーク。
1912年(明治45年)の開場は、メジャー球団の本拠地として使用されているスタジアムの中では最も古い歴史を誇っている。
本塁から左翼まで310フィート。メートル換算だと94.5メートル。本塁打が出すぎないようにと、37フィート(約11.3メートル)の高い壁、通称「グリーン・モンスター」がそびえたっているように、他球場に比べると、格段にグラウンドが狭い。
スタンドの構造も古く、視界の目の前に鉄柱が立っているような席もある。
しかし、建て替えようという声は上がらない。「パリにエッフェル塔があるように、ボストンにはフェンウェイ・パークがある」というのが、ボストン市民のプライドでもある。
2019年(令和元年)、レッドソックス球団は球場の改修計画に加え、フェンウェイ・パークに隣接する舞台芸術センターの「フェンウェイ・シアター」を建設するプランを発表した。
収容人員5000人の同シアターで、年間通してのエンターテインメントの興行やイベントを開催し、球場での試合がないときでも、周辺地域に人を呼び込む狙いがある。
また、シカゴ・カブスの本拠地・リグレー・フィールドは1914年(大正3年)に開場。レッドソックスのフェンウェイ・パークに次ぐ、MLB本拠地球場では2番目に古い球場で、ツタが絡まる外野フェンスは、この球場の名物でもある。
2016年(平成28年)、シカゴ・カブスが108年ぶりにワールドシリーズを制覇したとき、球団の資産価値は26億7500万ドル(約2917億円)と評価されたが、オーナーのリケッツ一族が球団を買収した2009年(平成21年)には8億4500万ドル(約921億3400万円)だったという。
その“価値の急上昇”の要因の1つとして、球団がリグレー・フィールド周辺の土地を積極的に買収、地域の再開発を行っていることを見逃すことはできない。
2017年(平成29年)、球場に隣接する「パーク・アット・リグレー」が開業した。
レストランやバー、芝生のゾーンやイベント広場、さらにはスケートリンクなど、試合開催日なら試合前や試合後、試合がないときにも一日中、十分に楽しめる施設が整っている。
球場がある街。野球が中心になるとはいえ、それがすべてではない。野球と同じように、演劇も、他のスポーツも、食事も、すべては人を楽しませるという観点から見れば、エンターテインメントの「1つのコンテンツ」なのだ。これらを集結させたエリアに、人を呼び寄せるのだ。
フェンウェイ・パークもリグレー・フィールドも、アメリカの「国定歴史建造物(National Historic Landmark)」に指定されている。
古き良き伝統を受け継ぎ、新たな時代に則した街を創っていく。
フェンウェイ・パークがあるボストンだからこそ、リグレー・フィールドがあるシカゴだからこそ、街の価値はどんどん高まっていく。
アトランタ・ブレーブスは、その傘下に「Braves Development company」を置き、既存の不動産会社を使わず、自らがマスター・ディベロッパーとして、球場建設もその周辺の開発も行っている。
ボストン・レッドソックスのケースも、球団の親会社である「Fenway Sports Group」は、サッカー・プレミアリーグの「リバプールFC」や、ニューイングランド州に映像配信するローカルスポーツネットワーク「NESN」も保有するスポーツビジネスのコングロマリットともいえる一大グループだが、その子会社に「Fenway Sports Group Real Estate」というディベロッパーを抱えている。
メジャー球団は今や、球団の傘下に「不動産開発業」をメーンとした子会社を置くケースが増えている。球場周辺の開発に自ら乗り出しているのだ。