(写真はイメージです/PIXTA)

相続で揉めないためには、事前の対策が必要です。岡野雄志税理士事務所の岡野雄志税理士が子どもがいない夫婦である「おふたりさま」の相続対策について、遺言書の作成後に認知症が発症した事例をもとに、ポイントを解説します。

今注目の認知症保険は、相続税対策にもなる?

高齢者の約5人に1人が認知症患者になるかもしれないという予測に伴い、生命保険会社が取り扱う「認知症保険」にも注目が集まっています。認知症は「公的介護保険」の保障対象にも含まれますが、どこが違うのでしょう?

 

「公的介護保険」により、要支援・要介護レベルに合わせて給付されるのは「介護サービス」という、いわば現物支給です。介護サービスの利用料金のうち、本人の所得に応じて1~3割が自己負担となります。

 

一方、民間の「認知症保険」は、保険会社によって基準や条件は異なりますが、一定の認知症状態と診断されたり、要支援・要介護と認定されたりすると、保険金や給付金が支給されます。これを介護サービスの自己負担費用や介護中の生活費に充てることができるのです。

 

保険会社の「認知症保険」には、一定期間を保障する定期タイプと、一生涯保障が続く終身タイプがあり、保障内容も様々です。今後の生活を考慮し、比較検討・選択されると良いでしょう。

 

ただ一つ、相続税対策という視点からいえば、死亡保障付きのものをおすすめします。

 

なぜなら、相続税には死亡保険金の非課税枠があるからです。被保険者と保険料負担者が財産を残して亡くなった被相続人で、保険金受取人が法定相続人の場合は、相続税の課税対象ですが、以下の範囲で非課税となります。

 

500万円×法定相続人の数=非課税限度額

 

Sさんのご主人も、奥様を受取人とする死亡保障付きの「認知症保険」へ、すでに加入されていました。また、奥様にはリゾート地の自宅・保険金・現金、そして、前妻のお子さんには預貯金や有価証券などを配分するよう遺言書と財産目録を作成していたようです。

 

配偶者が存命なら、常に法定相続人となります。相続の第1順位は直系卑属(子や孫など直系の親族で下の世代)ですので、Sさんの場合、前妻のお子さんとなります。第2順位は直系尊属(両親や祖父母など直系の親族で上の世代)ですが、すでに他界されています。第3順位は兄弟姉妹などですが、第1順位のお子さんがいるので、法定相続権はありません。

 

もし、Sさんのご主人が全財産あるいは過分な配分を現在の奥様に与えるよう遺言書に記していたら、これは問題でした。前妻のお子さんには、法律上、最低限保証された遺産取得分「遺留分」があり、お子さんが遺留分を主張すれば、法廷闘争にもなりかねないからです。

 

Sさんのご主人は認知症の兆しがあらわれるまえに、奥様を守るための最低限必要な準備をされていました。今後はそのバトンを引き継ぎ、奥様がすべきこともありますが、我々も専門家としてできる限りサポートしようと考えております。

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

岡野 雄志

岡野雄志税理士事務所

 

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