相続が発生するまえに!おふたりさまのトラブル対策
内閣府『平成29年版高齢社会白書』によると、平成24(2012)年の認知症を発症した高齢者数は462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人にあたります。令和7(2025)年には約5人に1人になるとの推計もされています。
また、厚生労働省『国民生活基礎調査(平成28年)』によると、65歳以上の要介護者等のうち介護が必要になった主な原因として「認知症」が全体総数の18.7%。「その他・不明・不詳」を除くとトップの原因です。
また、内閣府『高齢者の健康に関する調査(平成29年)』の55歳以上の人へのアンケートでは、「介護を頼みたい人」の最も多い回答が男性は「配偶者」で56.9%、女性は「ヘルパーなど介護サービスの人」で39.5%。実際に介護している人も「配偶者」が最も多く、25.2%でした。
誰でもいずれは高齢者となります。自分自身、あるいはパートナーや家族が認知症となる可能性を、他人事とはいいきれなくなっているのが現実です。では、認知症を発症した人が書いた遺言書は、法的に認められるのでしょうか?
被相続人が亡くなって相続が発生すると、遺言書を発見した相続人は速やかにその遺言書を家庭裁判所へ提出し、「検認」を請求しなければなりません。しかし、「検認」は遺言書の偽造・変造を防止する手続きであって、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
とはいえ、「検認」は民法で定められた法律行為です。そのため、法務局以外(自宅など)に保管の自筆証書遺言を「検認」せず、遺言書に従って遺言を執行したり、家庭裁判所以外の場所で開封したりすると、5万円以下の過料に処される可能性があります。
「検認」を経れば、相続人同士で遺産分割について話し合うことになります。万一、相続人の誰かがその遺言書に従うことを拒否した場合、家庭裁判所に調停の申立てを行います。さらに調停で解決しない場合、相続人が地方裁判所に「遺言無効確認請求訴訟」を起こすことで、遺言書の有効性・無効性は争われます。
被相続人が認知症の場合、その遺言書作成の時点で認知症を発症していたか、正常な判断能力があったかどうかが審理されます。Sさんのご主人のケースでは、遺言書作成は認知症発症前でしたので、遺言書が法定通りに書かれていれば、医師の診断書と日付を照らし合わせて有効になる可能性が高いでしょう。
しかし、その証拠だけでは充分とはいえません。Sさんの奥様もすでにご高齢ですから、今後、ご主人の認知症が進まないうちに、早めに打つべき手立てはまだまだあります。
●認知症発症前もしくは前兆段階なら……
(1)自筆証書遺言の原本は、自筆証書遺言保管制度を利用して法務局に預ける。※手続きができるのは遺言者本人のみ。
(2)判断能力が低下したときに備え、「家族信託制度」または「任意後見人制度」を利用する。
※配偶者は「家族信託」の受託者(委託者から財産管理を任された人)になれるが、信託財産を自由に使える訳ではない。信託財産の使用は、あくまで受益者(ex.家族)のためで、信託目的(ex.家族の生活費)の範囲内のみ。
※未成年、破産者、被後見人に対し訴訟をした者やその配偶者並びに直系血族でなければ、配偶者は「任意後見人」になれる。ただし、本人の判断能力低下の兆候があれば、任意後見人が速やかに任意後見監督人の選任申立てをすることが必要。任意後見監督人は本人の親族等ではなく、弁護士、司法書士、税理士、社会福祉士等の専門職が選ばれることが多い。
●認知症が進行し判断能力が低下したら……
本人の判断能力が低下した場合にのみ限られる「法定後見人制度」を利用する。
※配偶者や四親等内の親族等が家庭裁判所へ申し立てることにより、判断能力を常に欠いている状態の場合は「成年後見人」を、判断能力が著しく不充分な場合は「保佐人」を、判断能力が不充分な場合は「補助人」を裁判所が選任。弁護士、司法書士、税理士、社会福祉士等の専門職が選ばれることが多い。
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