ワイン業界に「並行輸入」はほとんどなかったが…
スピリッツやごく一部の日常消費用ワインでは脅威となっていたものの、市場規模がまだ小さかった1980年代には、ファインワインの並行輸入品はほとんどみられませんでした。
当時は日本のワイン輸入会社同士が紳士協定によって結ばれていた古き良き時代で、「他社がすでに輸入しているワインは扱わない」という不文律があり、酒類ディスカウンターが輸入するごく一部を除けば、ワイン業界に「並行輸入」はありませんでした。
ところで、スピリッツ業界にとっての「並行輸入」と、ワイン業界にとっての「並行輸入」は意味合いが微妙に異なります。完全なブランド・ビジネスであるスピリッツ業界の主要ブランドには、必ず正規輸入代理店が一社だけ存在するのに対し、ワイン業界はこの限りではありません。
もちろん、ジョルジュ・デュブッフに代表されるようなネゴシアン(酒商)銘柄や、ドン・ペリニョンに代表されるシャンパン銘柄のように、ブランド・マーケティングが重要な商品に関してはスピリッツ業界と同様ですが、中高級ワインのカテゴリーですでにある程度の名声を得ている生産者のなかには、複数の輸入業者と取引をしているケースがあります。
たとえば、カリフォルニアのオー・ボン・クリマは現在、日本の輸入業者4社程度と取引していますが、こうすることによって日本中の小売店やレストランへ広くワインの配荷が可能となります。また、輸入業者同士が納入価格を競うため、一社と独占輸入販売契約を結ぶ場合よりも店頭価格を低減でき、売り上げを最大化できます。
ただし、輸入業者側にとっては利ざやの薄いビジネスとなってしまうため、オー・ボン・クリマやドメーヌ・クロード・デュガといった、市場からの引き合いの強い生産者のみに可能な方法です。
もっと極端な流通方法を採用しているのは、ボルドーのトップ・シャトーです。ボルドーの格付けシャトーのほぼすべては、市場別に輸入業者と契約するという方法を採用せず、仲介業者(ネゴシアン)を介してしか各国の流通業者に販売しません。逆にいえば、2~3社の主要ネゴシアンに連絡するだけで、シャトー・ラフィット・ロートシルトであれ、シャトー・ラトゥールであれ、輸入業者はすべての格付けシャトーのワインを自由に仕入れることができます。
この「ボルドー・マーケット」のシステムは、それぞれの市場で複数の輸入業者を競わせることにより、輸入業者のマージンを低減させるメリットがあり、また、生産者みずからが膨大な営業スタッフを抱えなくても、世界中にワインを販売することが可能となります。
その一方、生産者は自分が出荷したワインが最終的にどこで消費されたか分からない状況で、また、仲介業者は金払いさえよければ誰にでも販売してしまうため、ワインが投機の対象とされてしまうリスクがあります。
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