基礎控除額以下まで相続財産を減らせば相続税はゼロに
相続税の増税、国外資産への課税や捕捉体制強化、所得税・消費税の増税など、増税の波が一気に押し寄せています。避けられない増税もありますが、対策を行うことで「払う」か「払わない」か、選択できる税金があります。その代表例が相続税です。
相続税は、全ての相続に対して課せられるわけではなく、財産の額と相続人の人数によっては発生しません。相続税が発生する課税割合は全体の4〜6%程度であり、関係のない人の方が多い税金です。相続税には「基礎控除額」が定められており、相続時の財産額がこの基礎控除額を超えて初めて相続税が課せられるということです。
つまり、現時点ですでに基礎控除額を上回る資産(4000万〜5000万円程度)を保有していて、確実に税金がかかりそうな人であっても、相続発生時までに基礎控除額以下まで財産額を減らすことができれば、相続税をゼロにすることができるのです。
相続税をゼロにする方法はいくつかありますが、最もリスクなくシンプルなのは、生きている間に財産を子供や孫に贈与しておくことです。いわゆる「生前贈与」ですが、この方法は、特に財産額が多い場合や贈与人数が少ない場合には、財産額を基礎控除額以下に減らすのに長い時間を要することがあります。
理由は、贈与税の基礎控除額が「受贈者1人につき年間110万円まで」と定められているからです。
「生前贈与を実行するか、しないか」、これが相続税対策の中でも最も基本的な最初の選択肢となります。ほかにも方法がありますが、個別の事情に応じて、複合的に対策を講じていくことになります。
資産や相続税額によって「有効な対策」は変わってくる
相続税対策は、大まかにいうと、財産額が3億円を超えるか超えないかで基本的な手法が異なってきます。
3億円以下の人の場合は、暦年贈与と保険加入といった「贈与による移転対策」、3億円を超える人の場合は、これら贈与による移転対策に加え、法人設立や不動産取得などの「評価額の引き下げ対策」を組み合わせて「合わせ技」にする手法が有効となります。
財務省の統計によると、平成25年分の相続税の納税者のうち、財産額が3億円以下の人の割合は86.5%で、3億円を超えた人の割合は、13.5%となっています。
また、亡くなられた方のうち、相続税の納税者の割合が4〜6%で、このうち財産が3億円以下の人の割合が86%なので、実に99%以上の人が、財産額3億円以下で相続を迎えているということになります。
つまり大多数の人にとっては、後述する暦年贈与や保険加入をしっかりやっておけば、相続税はゼロにできるということです。
ごく一握りですが、財産額3億円を超える人の場合は、贈与による移転対策だけでは限界があるため、評価額の引き下げ対策を組み合わせる「合わせ技」が必要になってきます。具体的には、現預金や有価証券のように市場価格で評価されてしまう財産を、自社株式や不動産など評価引き下げ余地の大きな財産に組み替えることです。
また取得する不動産は、自分で使用する物件でなく、他人に貸して貸家建付地とすることによってさらに大きな評価引き下げ効果を得ることができます。
同じ1億円の財産でも、相続時に現金で保有している場合、評価額は1億円のままですが、1億円の貸家建付地としている場合、例えば建物割合の大きな物件を保有していれば、物件によっては3000万円程度の評価となり、非常に大きな節税効果が得られることになります。
税金対策など一切考えないという方もいるかと思います。相続税額が1000万円程度であれば、じたばたせずに潔く払うという考え方もあります。
ところが、超富裕層といわれる税率50%以上の人が何もしないでいると、3回の相続で資産が10分の1となるため、無視できる水準ではなくなってしまうのです。筆者の印象では、予想される納税額が概ね5000万円を超えてくると、税金対策に対する本気度が変わってくる方が多いように思われます。
広い意味での相続対策としては、いわゆる節税対策のほかに、遺産分割対策、納税資金対策も考えておく必要があります。遺産分割でもめて兄弟姉妹がその後一生口をきかなくなったということがないようにしておかなければなりません。
また、申告期限である相続開始後10カ月以内に納税資金が用意できず、泣く泣く先祖代々の土地を売却したりすることがないように、あらかじめ準備をしておくことが重要です。
富裕層にとって特に影響が大きい税金は所得税と相続税ですが、次回は相続税対策について解説していきます。