前回は、富裕層や企業オーナーが意識したい「タックスマネジメント」について解説しました。今回は、法人化によって「税率」を引き下げる方法を、留意点と合わせて見ていきます。

個人所得を法人所得に転換して税率を引き下げ

キーワード①法人化による税率の引き下げ

法人化による税率の引き下げ対策とは、個人所得を法人所得に転換することで税率を引き下げる方法です。

 

所得税は、その額に応じて税率が高くなる累進課税制度であるため、所得が高いほど所得税率も増加します(住民税・復興税含めて最高税率56%)。仮に給与収入が4000万円の人の場合、所得税・住民税のほか社会保険料も含めると、手取り金額は約6割の2500万円といったところでしょう。

 

他方、法人税の実効税率はほぼ一律で、中小法人の場合、平成28年度で33.8%、平成29年度で33.6%となっています(標準税率)。個人の所得税率が法人税率よりも高い状況であれば、この税率差を利用した節税が可能だということです。

 

高額所得者ほど適用される税率に差が生じるため節税になります。大まかな目安としては、個人の課税所得が1500万円を超えていれば、個人よりも法人の方が税負担が軽くなります。また、法人化によって、所得分散による節税効果を享受することもできます。設立した法人から子供や孫に役員報酬を支払うことで所得の分散効果が得られます。

 

この場合、給与所得控除の適用を受けることができるほか、親族内の税率差を利用した節税を図ることが可能となります。このほかのメリットとしては、経費として認められる範囲が広くなることです。役員退職金として一定額が損金になるほか、生命保険料の一部または全部が費用化できることや、自宅を社宅としてその家賃を法人の費用とすることができます。

 

また、欠損金を9年間(2017年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金は10年間)繰り越すことができるため、キャッシュフローのコントロールが個人所得よりも容易になるというメリットもあります。

登記費用や社会保険料負担などマイナス面にも留意

ただし、会社設立にあたっては、登記費用や経理事務の負担など、手間とコストがかかることや、社会保険料の負担が増加することなど、マイナス面にも留意する必要があります。

 

また法人への資産移転の際に、個人側の譲渡所得税の負担や、法人側での購入資金負担が生じる場合があり、慎重に判断する必要があります。特にストックリッチ層にとって、法人化の大きなメリットは、所得税対策になるだけでなく相続税・贈与税対策にもなることです。

 

前述したように、法人化によって、相続税評価は自社株としての評価に変わります。自社株での評価となれば、評価引き下げ対策を駆使して評価を引き下げることができます。

 

不動産などの資産を取得して3年を経過すると、相続税評価額で評価することができるようになり、場合によってはゼロ円での移転も可能となります。特に富裕層にとって、法人化はフローとストックの両面で効果のある税金対策の定番といえるでしょう。

本連載は、2016年7月4日刊行の書籍『超低金利・大増税時代の資産防衛戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

超低金利・大増税時代の 資産防衛戦略

超低金利・大増税時代の 資産防衛戦略

森 秀光

幻冬舎メディアコンサルティング

終わりの見えない超低金利時代。加えて、相続税や所得税の増税、海外資産の捕捉厳格化など、富裕層が持つ資産は国から狙い撃ちにされているのが現状だ。そんな中で大切な財産を守り受け継いでいくには、どうすればいいのか? …

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