拒絶が怖く、親密な関係が築けない人の「心の傷」を癒す方法 (※写真はイメージです/PIXTA)

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

そんなとき、澄美子さんは自分から、「あるボランティアの仕事をやってみたいと思うのですが、どうでしょう」と相談してきた。きっとそれはいいきっかけになると思った筆者は、そんなふうに考えられるようになったことを喜び、「気軽に試してみたら」と、少し自信がなさそうな澄美子さんの背中を軽く押した。

 

「わかりました」とうれしそうに笑って帰っていくと、澄美子さんは翌月から、そのボランティアの仕事を始めた。英語力を活用できるボランティアで、澄美子さんは自分にも役立てる仕事があるということが、とてもうれしかったようだ。その活動について、来るたびに喜々として報告してくれた。

 

●新たな安全基地となった存在は、再婚相手などの特定の人物ではなく…

 

それからもう何年もたったが、今も澄美子さんは元気にその活動を続け、充実した日々を送っている。ボランティア活動を通して知り合いも広がり、弁護士夫人として暮らしていたころよりも、生き生きとしている。

 

ご自分でも、「あのとき離婚を決意して良かったと思っている」と語り、「自分の中に、夫に対する失望があって、夫はどこかでそれを感じ取って、自分を心から尊敬してくれる存在に走ったのかもしれない。だけど、夫が先に裏切ってくれたので、内心嫌気がさしながら夫婦を続けるということをしなくて良くなった。おかげで、自分らしい人生を取り戻すことができたのだと思っている」と、笑いながら話せるようになっている。

 

澄美子さんの場合、新たな安全基地となった存在は、再婚相手などの特定の人物ではなく、彼女が子どものころから憧れていた、「困っている人の味方になるという生き方をする」ことだった。そこで出会った人たちを支えること、つまり彼女自身がその人たちの安全基地となることが、彼女に安全基地を与えてくれたのである。

 

そこには、彼女自身が尊敬する父親を、小学四年生のときに失ったという心の痛手も関係していただろう。弱い者の味方であったはずの大好きな父親が、不倫に走り、母親を泣かせるという事態に、まだ少女だった澄美子さんは大きな衝撃を受けた。失われた父親を取り戻そうと、彼女は夫に理想の存在を求めたが、それも裏切られてしまう。

 

結局、誰かにその役を求めるのではなく、彼女自身が、父親にしてほしかったことを困っている人々におこなうことによって、子ども時代に味わった大きな失望を回復させようとしていたに違いない。

 

精神科医、作家

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで困難な課題を抱えた若者に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。大阪心理教育センター顧問。

著書に『愛着障害』『回避性愛着障害』『死に至る病』(以上、光文社新書)、『ストレスと適応障害』『発達障害と呼ばないで』(以上、幻冬舎新書)、『パーソナリティ障害』(PHP新書)、『母という病』(ポプラ社)、『夫婦という病』(河出書房新社)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)など多数。

小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『DZ』『風の音が聞こえませんか』(以上、角川文庫)、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。

著者紹介

連載【精神科医が解説】親密な人間関係がうまくいかない「愛着障害」克服する方法

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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