(※写真はイメージです/PIXTA)

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

根本治療で過去の呪縛を解く「新しい認知療法」とは?

振り返る力が高い人では、愛着が安定しているという事実から、振り返る力を高めれば、愛着が安定するのではないかという仮説が生まれる。ピーター・フォナギーは、この仮説に基づいて、MBT(メンタリゼーションに基づく治療法)を、愛着が極めて不安定な「境界性パーソナリティ障害」の治療において試みている。

 

メンタライジングを高めるMBTも、認知に働きかける治療の一つだといえるだろう。では、通常の認知療法とMBTはどう違うのか。

 

通常の認知療法では、過去の体験は問題にせず、今現在の行動や感情的反応だけを見て、そこから特有の反応パターンやその背後にある考え方のクセを見つけ出し、それを、もっとうまくいく考え方に変えていこうとする。とくに対象とされるのは、自分の視点にみられる認知の偏りである

 

それに対して、MBTでは、現在の認知や反応パターンにだけ対象を絞ることはしない。現在の認知や行動を、過去の体験との関係から理解し、それが過去の状況を再現しようとしていることに気づくことで、過去の呪縛を解こうとする。

 

また自分だけでなく、他人の視点からも物事を見ていき、相互的なやり取りを重視する。たとえば、人の顔色ばかり気にして、つい機嫌をとってしまう人がいるとしよう。認知療法では、それを、他人に頼らないと生きていけないという信念を抱いているがゆえに、他人に合わせることで、生き残ろうとする戦略をとっているのだと説明する。

 

しかし、こうした説明を聞くことで、自分の行動パターンを理解することはできても、その行動自体を変えることは難しい。それに対して、MBTでは、その人の過去を紐解いていくことで、親に支配され、いつも顔色を見て機嫌をとってきた過去を、記憶によみがえらせる。そうした過去の体験も視野に置きつつ、人の顔色ばかりうかがってしまうという現在の行動を振り返ってみると、自分が過去の体験を再現しているということが、まざまざと理解される。

 

その根っこから、現在の行動や認知をとらえられることで、より深い洞察が得られるとともに、カタルシスが起きて、その呪縛が解けていくことにつながる。実際、思いがけないつながりを知って、感極まり涙を流す人も多い。

 

つまり、愛着の傷となっている体験にまで遡って、現在の行動を理解したとき、人は心を強く動かされ、認知や行動の修正も起きやすいのである。さらには、そうした課題を抱えた人が、治療スタッフとやり取りすることにより、自分や相手の感じ方、受け止め方について気づくことができ、さらに気づいたことをやり取りすることで、変化を生んでいく。メンタライジングと認知・行動が、フィードバックし合うことが、修正を生じやすくするのである。

 

愛着が絡んだ問題では、家族史的な因果関係があり、また相互的な絡まり合いがあるので、MBTの手法が、通常の認知療法よりも効果を発揮しやすいと考えられる。

 

※なお、本文に登場するケースは、実際のケースをヒントに再構成したもので、特定のケースとは無関係であることをお断りしておく。

 

 

岡田 尊司

精神科医、作家

 

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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