傷ついた人をさらに追い込む「良識的アドバイス」の危険性 (※写真はイメージです/PIXTA)

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

カウンセラーの指摘は、正しいかもしれないが…

ここからは愛着アプローチによって、不安定な愛着が解消した事例を紹介する。

 

【事例:クラスで孤立する高校生の女の子】

 

高校生の女の子が、クラスの中で孤立し、教室に入れなくなっている。女の子の相談を受けていたスクールカウンセラーは、彼女が物事を悪い方に受け止めすぎる傾向があることを強く感じるようになった。その偏った認知によって、悪意のないさりげない言動までも、自分を攻撃するもののように受け止めていると思えたのである。

 

女の子の受け止め方が、彼女の適応力を損ない、教室でも孤立を招いているに違いなかった。スクールカウンセラーとしては、被害的に受け止めてしまう傾向を修正できれば、もっと気楽に教室にも入れるようになるのではないか、そう思って、認知療法を試みることにしたのである。

 

ところが、カウンセラーが、「○○さんには、ちょっと物事を悪く受け止めすぎる傾向があるんじゃない? もう少し、心が痛まない受け止め方はないかな?」と発した言葉に、その女の子は顔色を変えた。「先生は、私の言うことを信じてくれないの? 私がオーバーに受け取っていると思っているの?」。

 

カウンセラーは、「そんなことはないよ。嫌なことを言われてつらかったんだよね。でも、もう少し傷つかない受け止め方ができたらいいなと思って」と説明した。

 

その場は、納得して帰ったものの、その女の子は、二度とそのカウンセラーのところには行かず、「カウンセラーが自分のつらさを少しもわかってくれず、私の方にも責任があると言った」と、母親に涙ながらに訴えるという事態になってしまった。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

その後、彼女を担当することになった別のカウンセラーは、彼女の気持ちに寄り添うことだけに注力した。それと同時に、母親からも女の子にプレッシャーがかかっている点に着目して、母親のサポートにも取り組んだ。

 

母親はきりきりするのをやめ、女の子との関係も安定したものとなった。すると女の子は、元気を回復し、クラスにも入れるようになった。

 

その後彼女は、自分から、「少し敏感になりすぎて、悪く考えすぎていたかもしれない」と、以前のことを振り返った。認知には、何の手当てもしていないが、愛着が安定したことで、被害的な認知もなくなってしまったのである。

 

このケースのように、愛着に課題がある場合には、認知を扱うよりも、愛着の安定化に努力した方が有益である。支援者との愛着がまず安定したものになるようにするとともに、親や家族との愛着の安定化や修復を図っていく。

 

ただ、愛着が安定し始めたときに、認知の方にも働きかけて、より柔軟で、適応性の高い受け止め方へと導くことは、いっそう着実な変化を生むことにつながる。とはいえ、そのためには、本人のいる段階を追い越さないようにする必要がある。本人が自分で気づくということが、大事なのである。

安定した愛着の人が、事態に即した対処を取れる理由

安定した愛着の人は、身に降りかかった事態に向き合い、それをしっかりと受け止めるが、同時に過剰反応せずに、事実を客観的に見極めようとする。それによって、事態に即した対処を、冷静にとることができる。

 

不安定な愛着の人では、起きている問題自体から目を背け、見て見ぬふりをしてやり過ごしたり、逆に感情的に過剰反応してしまい、かえって状況を悪化させる。前者の反応は、回避型と呼ばれるものに典型的であるし、後者の反応は不安型と呼ばれるものの特徴である。

 

問題にしっかり向き合うと同時に、客観的に事実を受け止め、過剰反応しないというスタンスと最も関係していると考えられるのが、「振り返る力」である。振り返る能力は、自らを反省する力であるとともに、相手の気持ちを推測し、汲み取る力でもある。さらに、状況から一歩下がって、事態を高みから俯瞰するように、大きな視点で眺める能力でもある。

 

こうした能力は、リフレクティブ・ファンクションと呼ばれたり、メンタライジングと呼ばれたりする。メンタライジングとは、相手の行動の背後に、「心」という機能を想定することで、相手の行動を理解しようとする機能である。

 

たとえば、いつもはすぐメールの返事をしてくれる人が、一向に返事をくれない。そういえば、最後に返事が来たとき、いつもより短く、そっけないものだった。こうした相手の行動から、「こちらのメールが負担になっているのではないか」と推測する。これがメンタライジングだ。

 

ところが、返事がすぐ来ないことに腹を立てて、怒りの催促メールを出したりすれば、状況はさらに悪化することは必定だ。振り返り力がある人は、相手の気持ちを察するだけでなく、自分の行動も振り返ることができる。そういえば、最近少し相手に甘えて、メールを頻繁に出しすぎていたかなと反省する。

 

それによって、自分の行動にブレーキをかけ、しばらくメールするのを控えることにする。すると相手は、自分の気持ちを汲んでもらえたことで、その人に対する安心や信頼を取り戻し、人間関係が破たんすることが避けられる。

 

ストーカー化してしまい、関係が破たんしてしまうところまで行きつくか、それとも、そうした事態を避け、バランスの良い関係を維持できるかの違いは、行きすぎたときに、相手から出るサインを読み取り、ブレーキをかけられるかどうかにかかっている。

 

振り返る力、メンタライジング力とは、今の自分の思いや欲求に飲み込まれず、相手の気持ちや自分のふるまいを客観的に見る力だといえる。振り返りが可能なためには、感情の渦から、少し距離をとる能力が必要になる。同時に、相手の気持ちを汲み取り、感じ取れることも必要である。前者は内省する能力であり、後者は共感する能力である。

 

そして、両者は背中合わせの能力と考えられている。自分を振り返る力がある人は、相手の気持ちを察する能力も高い。そして、物事を客観的に振り返ることができる。

 

なお、メンタリゼーションという名詞形も用いられるが、メンタライジングという動名詞が使われる場合には、能動的で、相互的な働きが強調されている。実際、心を察知するという働きは、静的というより動的な相互作用である。相手とのやり取りの中で、それは汲み取られるものなのである。

精神科医、作家

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで困難な課題を抱えた若者に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。大阪心理教育センター顧問。

著書に『愛着障害』『回避性愛着障害』『死に至る病』(以上、光文社新書)、『ストレスと適応障害』『発達障害と呼ばないで』(以上、幻冬舎新書)、『パーソナリティ障害』(PHP新書)、『母という病』(ポプラ社)、『夫婦という病』(河出書房新社)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)など多数。

小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『DZ』『風の音が聞こえませんか』(以上、角川文庫)、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。

著者紹介

連載【精神科医が解説】親密な人間関係がうまくいかない「愛着障害」克服する方法

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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