※画像はイメージです/PIXTA

「笑い」は筋肉を使用する運動であり、ストレスホルモンの減少も促すなど、体に良い行為です。本記事では在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき院長の宮本謙一氏が、在宅医療と「笑い」について、医師の立場から解説していきます。

「在宅療養に関わる専門職」がいつも考えていること

大晦日の夜に毎年恒例のお笑い番組が放送されます。たくさんの笑いの仕掛けがあり、主役の5人が笑ってしまうと厳しいお仕置きが待っているという内容で、タイトルは「絶対に笑ってはいけないXXXX」となっています。もちろん実際は、最初から最後まで大笑いして年を越す、楽しい番組です。

 

日本では、笑うことは時に「ふざけている」「不真面目」ともとらえられがちです。これは、昔の「武士道」や「お歯黒」などの文化が影響していると考えられています。表情を変えない、白い歯を見せないことが正しいことだと考える文化が根強いのかもしれません。私たちの日常生活でも、笑ってはいけないと考えられている場面は少なくありません。

 

お通夜やお葬式はその代表だと思います。学校の授業や仕事の研修中などでも、不必要に笑ってしまうと「真面目に話を聞け」と怒られてしまいます。免許証などの証明写真も、一般的に、笑っている写真はNGとされています。

 

しかし、在宅療養に関しては、「笑ってはいけない」などということは絶対にありません。

 

もちろん、在宅療養は楽しいことばかりではありません。次第に病状が悪化していく、また加齢により身体機能や認知機能が低下していく、そんななかで、患者さん自身も、介護している家族も、つらい想いをすることも少なくないでしょう。

 

だからこそ、笑いが必要なのだと思います。これまでに述べてきたとおり、笑うことは本当に健康に良いのです。ストレス解消、生活習慣病改善、免疫力向上、疼痛改善、うつの改善、認知症予防など、笑いにはさまざまな効果があり、副作用はほとんどありません。

 

薬と比較しても、こんなに効果的で副作用の少ないものは存在しません。患者さんも家族も、在宅療養にはぜひ笑いを取り入れるべきだと思います。決してふざけて笑っているわけではないことは、患者さん自身、あるいは介護している家族自身がいちばん分かっているはずです。

 

普段介護しているわけではない遠方の親族などが、何かの拍子に、在宅療養に笑いを取り入れることについて批判をしてくるかもしれませんが、そんなことを気にする必要はありません。すべては患者さんのためであり、笑いが在宅療養を豊かなものにするのであれば、どんどん取り入れるべきです。

 

この文章を書いている私自身も、時には笑いを忘れてしまうことがあります。がんの末期状態の患者さんなどで、短期間で急激に状態が悪化していく場合、患者さんの深刻な訴えに耳を傾けながら、ついつい表情が険しくなってしまいます。

 

しかし、患者さんの在宅療養に関わる専門職である私たちこそ、常に笑いを忘れてはいけないと思います。

 

真剣な表情で患者さんの訴えを聞くことは、私たちの仕事のなかでも最も重要なことです。その訴えに対して、有効な治療法や対処方法が思い浮かばない場合もあります。

 

それでも私たちは、時に笑顔を交えながら、患者さんの気持ちに寄り添い、時に励ましたり、一緒に涙を流したり、正直に「良い治療法がないこと」を伝えつつ、つらい症状を在宅療養のなかで少しでも和らげるような前向きな過ごし方、楽しみや笑いのある生活を提案しなければなりません。

 

私たちが笑顔を忘れてしまっては、目の前の患者さんを笑顔にすることなんて絶対にできない。そう思いながら、日々在宅療養中の患者さんを支える仕事を続けています。

 

 

宮本 謙一 

在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき 院長

 

 

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※本連載は、宮本謙一氏の著書『在宅医療と「笑い」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

在宅医療と「笑い」

在宅医療と「笑い」

宮本 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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